1968
ベトナム戦争反対運動や公民権運動、パリ五月革命やプラハの春、日本では東大紛争など、若者たちを中心に反体制運動が激化したこの時代は”政治の季節”と呼ばれた。この時代の緊張感や混乱、不安の暗い影の影響によって、ロック・ミュージックもよりシリアスな表現や”愛と自由と平和”を強調するものが目立つようになる。
サイケデリック・ロックという”実験場”からはプログレッシヴ・ロックやコンセプト・アルバムに始まり、アート・ロック、ハード・ロック、ブラス・ロックなど、様々なロックの進化形が生まれたが、一方ではその反動のようにルーツ・ミュージックへの回帰が始まった。ブルース・ロックやカントリー・ロックが登場し、レイドバックと呼ばれる音楽も生まれた。
そしてジミ・ヘンドリックスの影響とブルース・ロックの隆盛によって、高度な技術を持つスーパー・ギタリストたちにも注目が集まるようになった。やがてハード・ロックの誕生と共に、ギタリストはロック・シーンの中心的な存在となっていく。
以下はそんなザワザワとした1968年を象徴した名曲10選です。
Steppenwolf – Born To Be Wild
カナダ出身のバンド、ステッペンウルフの3枚目のシングルで、全米2位の大ヒットとなった。さらに翌年に史上初の全編にロックが使われた映画『イージー・ライダー』の主題歌にも抜擢され、映画の大ヒットと共に世界的に有名になった。ハーレーの疾走シーンと言えばこれを超える音楽はいまだに出て来ないが、ハード・ロックの嚆矢としても評価されている。
The Band – the weight
ザ・バンドもまたカナダ出身のバンドだ。ボブ・ディランのバック・バンドを務めていたが、この年に名盤1st『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』でデビューした。彼らのルーツ・ミュージック指向と”レイドバック”と言われるスタイルは注目を集め、多くのフォロワーを生んだ。この曲も映画『イージー・ライダー』で使用された。
Janis Joplin – Piece of My Heart
テキサス州出身のジャニス・ジョプリンは史上初の本格的な女性ロックシンガーであり、そのブルージーでド迫力の天才的なヴォーカル・スタイルは衝撃を与えた。たった3年の活動の後にこの世を去ってしまったが、それから50年以上になるけれども、今だに彼女を超える女性ロックシンガーは現れていないとわたしは思う。
The Byrds – Hickory Wind
デビューすると同時に”フォーク・ロック”を創造し、翌年に今度は”サイケデリック・ロック”の先駆けとなり、そしてこの年は新メンバーとして加入したグラム・パーソンズを中心に”カントリー・ロック”を生み出す。60年代のアメリカン・ロックの変遷はまさにバーズが牽引したと言っても過言ではないだろう。
この曲はグラム・パーソンズの最高傑作のひとつで、ヴォーカルも彼だ。いろいろな樹木のことを歌ったカントリー・ワルツのバラードで、樹木の葉をやさしく揺らす、爽やかな風のような名曲だ。
Kinks – The Village Green Preservation Society
ビーチ・ボーイズの『ぺット・サウンズ』から始まったコンセプト・アルバムの流行は、各バンドだいたい1作ずつ作って、成功したり、しなかったりしてそれでお終いとなったものだが、キンクスだけはこの名盤『ヴィレッジ・グリーン・プリザベイション・ソサエティ』から始まり、その後10年近く、10作ほどのコンセプト・アルバムを作り続けた。あまり知られていないようだが、そのほとんどが名盤である。まさにキンクスの傑作の森の時代だが、その時期がいちばん商業的に低迷していたというのがなんともキンクスらしい。
The Jimi Hendrix Experience – All Along the Watchtower
ボブ・ディランの名曲のカバーだが、たぶんジミヘンのバージョンのほうが有名だろう。シングルとしてもリリースされ、全米20位、全英5位と、彼にとってのチャート最高位を記録した。ディランもこのカバーを絶賛し、「この曲の権利の半分ぐらいはヘンドリックスのもの。あれが完成版だ」と語ったという。
Cream – Crossroads
エリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーという名人トリオによる、ブルース・ロックを基調にしてサイケデリック風味を効かせた英国のバンドで、ハード・ロックの先駆となった。また、ライヴでは長い長いインプロヴィゼーションで、各々が高度な技術を披露して観客を圧倒し、ロック界のヴィルトゥオーゾ・ブームに火をつけることとなった。
この曲はエリック・クラプトンによるロバート・ジョンソンの大胆なハード・ロック調カバーだ。
The Rolling Stones – Sympathy for the Devil
ストーンズの数ある名曲の中でも特に異様な凄味を持つ曲だ。
ミック・ジャガーによる、まさに悪魔に取り憑かれたようなヴォーカルも凄ければ、キース・リチャーズのおそろしく凶暴で切れ味鋭いギター・ソロも凄い。そしてストーンズはこれ以降、米国南部のルーツ・ミュージックに回帰し、作風を一変させて名曲名盤を連発し、60年代を超える成功を収めることになる。
Van Morrison – Astral Weeks
ゼム解散後にソロデビューしたヴァン・モリソンの2ndアルバムのタイトル曲。この異様さ、美しさ、激しさ、奥深さは、まるで宇宙の深淵を覗くような衝撃的な音楽だ。
ジャズの要素もあれば、フォーク・ロック、R&B、カントリーなど様々な要素もあるけれど、決してそのどれにも当てはまらない。天才が23歳で創造した革新的な音楽だ。
Otis Redding – (Sittin’ on) The Dock of the Bay
モントレー・ポップ・フェスティバルでの伝説級のパフォーマンスなどでロック・ファンにも大きな支持を得た”ディープ・ソウル・シンガー”、オーティス・レディングは、この曲を録音した3日後に、飛行機事故でこの世を去った。そして翌月にシングルとしてこの曲が発売されると、全米1位となり、オーティスの最大のヒット曲となった。
選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪YouTubeプレイリスト⇒ ヒストリー・オブ・ロック 1968【ルーツ・ミュージックへの回帰】Greatest 10 Songs
ぜひお楽しみください。
(by goro)