Bob Dylan “Pat Garrett & Billy the Kid”
これは好きなアルバムだ。
前作『新しい夜明け』からおよそ3年間、ディランは一切レコードを作らず、ライヴの出演も特別なフェスなどごく限られたもののみとするなど、隠遁生活に入った。
当時、ファンやマスコミに追いかけられ、家族と共に住むウッドストックの自宅にまで押し寄せてきたりすることに危機感を感じ、人気ロックスターであることを自ら放棄するため、「わざと売れないレコードをいくつか作った」と語っているように、とにかく状況を変えて、家族と静かに暮らすことを最優先したかったのだろう。
そして3年ぶりにリリースしたアルバムがこの、サム・ペキンパー監督の映画『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯(Pat Garrett and Billy the Kid)』のサウンドトラックだった。
全曲ディランの書下ろしだが、全10曲中、ヴォーカルが入っているのは「ビリー・ザ・キッド1」とその変奏である2つのトラック、そして「天国への扉」と、大まかに言うと2曲のみだ。しかしこれは2曲とも素晴らしいし、他のインスト・ナンバーも良い出来で、アコースティック楽器の響きが滅法美しく、空間的な広がりや時間的な広がりまで感じさせるような音楽だ。
全曲メキシコ市のスタジオで録音されていて、バック・バンドはブッカー・T・ジョーンズやロジャー・マッギンのほかに、クリス・クリストファーソンのバンドのメンバーや、地元のメキシコ人を起用している。
カントリー&ウエスタンの、「ウエスタン」のほうにまでディランが辿り着いたというわけだ。ある意味、最もディープなディランのアルバムのひとつとも言えるかもしれない。
映画はビリー・ザ・キッド役の主演をクリス・クリストファーソンが演じていて、彼を追う保安官パット・ギャレットをジェームズ・コバーンが演じている。ディランもナイフ使いの役で出演している。
わたしはこの映画を観ていなかったが、今はPrimeVideoで見れるとわかって、早速299円を払って観てみた。
30年前からサントラだけを聴いていて、ついに映画本編を見るというめずらしい経験だった。
聴き慣れた音楽がオープニングから流れてくるとちょっと感動する。なんだか、30年来の友人の、仕事をしている姿を初めて見たような。
「天国の扉」はてっきりビリーが死ぬときに流れるものだと勝手に想像していたのだけど、全然別の人が死んだときに流れたな。びっくりした。
パット・ギャレットを演じたジェームズ・コバーンがめちゃくちゃカッコいい。あんな感じの俳優は、今はもういない。昭和の時代はタバコのLARKのCMでお馴染みだった人だ。
ディランはあきらかに1人だけ俳優って感じがしなかったけど、でもそれはそれで個性的でいい感じだった。目がキラキラ輝いていたな。
↓ 主題歌として何度か変奏される「ビリー・ザ・キッド1(Billy 1)」
↓ 「天国の扉(Knockin’ on Heaven’s Door)」
↓ オリジナル予告編