“The Times They Are a-Changin'”
これも歌とギターとハーモニカだけの、ディラン22歳、プロテスト・ソング時代のアルバムだ。全米20位、全英4位を記録した。
タイトル曲「時代は変わる」はディランの最も有名な曲のひとつだ。
世界大戦の時代に生きた親たちの世代を「時代遅れ」と断罪して、自分たちの世代こそが新しい時代の進歩的な正しい姿だとするような歌詞である。
この考えには世界中の若者たちが興奮し、調子に乗ったものだった。
後の日本のフォーク・ブームも基本的にこの考えで、戦争を知らない世代であることを誇らしげに謳い、戦前・戦中を生き抜いた世代との間に断絶が生まれたものだ。
いやべつに、ディランのせいではないけれども。
若い頃のわたしもこのような歌詞にはそれなりに共感したり興奮したものだけれども、今はもちろんピクリともしない。今はもう、なにが新しいの古いのという時代でもなくなった、若者から老人まで、百者百様の多様性が尊重されるべきとされている時代なのだ。
わたしは今でもこの曲をよく口ずさんだりするし、音楽的な意味で聴くのは大好きだけれど、べつに歌詞に共感しているわけでもない。当時のディランには申し訳ない気もするけど、現在のディランならわかってくれるだろう。
でもこのアルバムのもうひとつのハイライト、「ハッティ・キャロルの寂しい死」のような、今聴いても共感し、面白いと思う歌もある。
食堂で働く貧しいおばさんを、大金持ちの男が理由もなくステッキで頭をぶん殴って殺したという話だ。しかし権力者たちにコネがあるこの男には、懲役6カ月という理不尽なほど軽い判決がくだされたという結末である。
リアリティのある言葉で描かれた、短編小説みたいな強い印象を残し、聴く者の心を刺激するプロテスト・ソングの素晴らしさは、さすがディランという他ない。
ちなみにこの曲は、吉田拓郎の初期のライヴ・アルバム『たくろうオン・ステージ第二集』に「準ちゃんが吉田拓郎に与えた偉大なる影響」という自伝的な歌詞の歌でカバー(ていうか替え歌だな)されていた。懐かしいな。
カッコいいジャケットも多いディランだけれども、このジャケがわたしは一番好きかもしれない。わたしはこれをレコードで持ってるので(自慢)、今回は46分間ずっと、このジャケットを眺めながら聴いた。
それにしても、あのデビュー・アルバムの柔和で幼い表情はどこへいったのかと思うほど、ディランの表情がたった2年で激変しているように見える。いったい、なにがあったのだろう。
↓ 「時代は変わる(The Times They Are a-Changin)」
↓ 「ハッティ・キャロルの寂しい死(The Lonesome Death of Hattie Carroll)」