⭐️⭐️⭐️
Brinsley Schwarz
“Silver Pistol” (1972)
イギリスのバンド、ブリンズリー・シュウォーツは、ヴォーカルとベース、そしてソングライターを担当するニック・ロウ、ギターのブリンズリー・シュウォーツ、ドラムのビリー・ランキン、キーボードのボブ・アンドリュースの4人で結成し、1970年4月に1stアルバム『ブリンズリー・シュウォーツ』デビューした。同年12月にはさらに2ndアルバムもリリースしたものの、どちらも鳴かず飛ばずだった。
「英国のザ・バンド」とも評されたブリンズリー・シュウォーツは、1972年、彼らの目指す英国流カントリー・ロックにぴったりのギタリスト、イアン・ゴムを加え、ソングライターをニック・ロウとイアン・ゴムの2人体制とし、まるで初期のザ・バンドのビッグ・ピンクのように、ノースウッドの一軒家で共同生活をしながら3rdアルバム『シルヴァー・ピストル』を制作した。
1972年2月にリリースされた本作は、残念ながらまたしても商業的な成功は得られなかったものの、彼らの最高傑作であり、後に「パブ・ロック」と呼ばれるシーンの最初の名盤となった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ドライ・ランド
2 メリー・ゴー・ラウンド
3 ワン・モア・デイ
4 ナイチンゲール
5 シルヴァー・ピストル
6 ザ・ラスト・タイム・アイ・ウォズ・フールド
SIDE B
1 アンノウン・ナンバー
2 レンジ・ウォー
3 エジプト
4 ニキ・ホーキー・スピードウェイ
5 ジュ・ジュ・マン
6 ロッキン・チェアー
前2作に比べると、よりイギリスらしいポップ・センスが増したカントリー・ロック、あるいはスワンプ・ロックと言った感じだ。
これを聴いていると、なんというか、欲のないピュアな人たちなんだなあとあらためて感心する思いだ。
当時のイギリスはハード・ロックやグラム・ロックが全盛の時代である。こんなカントリー・ロックやスワンプ・ロックなどをやっても売れもしないしモテもしないだろう。まるでテレビ東京の『ニッポンに行きたい人応援団』などに出てくる、日本の伝統工芸職人に弟子入りする奇特な外国人のようだ。
でも彼らのピュアな情熱と素朴な音楽はちゃんと東の果ての島国の、やっぱりモテもしないし売れもしない20代のわたしには届いていたのだった。このアルバムはわたしにとって、パブ・ロックのアルバムでは最もよく聴いたもののひとつだった。
静かなバラードのB3「エジプト」では、外で犬が吠えているのもマイクが拾っている、なんとものどかな、リラックスした雰囲気のアルバムである。
↓ 本作の中でわたしがいちばん好きな、ニック・ロウ作のA2「メリー・ゴー・ラウンド」。
↓ 本作からシングル・カットされた(もちろん売れなかったが)、アルバム屈指の美しいワルツ。ニック・ロウの作で、いかにも彼らしい、英国的なポップ・センスが光る佳曲だ。賑やかだったパブがこの瞬間だけ静まり返って、酔客たちが音楽に耳を傾ける、そんな光景も想像してしまう。
(Goro)