⭐️⭐️⭐️
XTC
“Skylarking” (1986)
1986年初頭の定例会議で、ヴァージン・レコードの幹部は、次のアルバムが7万枚以上売れなければ、XTCとの契約を打ち切ると決めた。
レーベルは、XTCのレコードが売れない理由のひとつとして、そのサウンドが「イギリス的すぎる」と考えていた。彼らはXTCの次のアルバムをアメリカ市場でも支持されるものにするため、アメリカ人のプロデューサーをリストアップし、バンドに選ばせた。
XTCのキーボーディスト、デイヴ・グレゴリーは、ファンだったトッド・ラングレンの名前がその中にあるのを見つけ、他のメンバー、アンディ・パートリッジとコリン・モールディングに彼を推挙した。二人はトッドのことをよく知らず、気乗りがしなかったが、最終的に「トッドはニューヨーク・ドールズの1stをプロデュースしたんだ」というデイヴの言葉に心が揺れ、承諾したという。
しかし、どちらもこだわりが強く、口が悪く、指図されることを嫌うお山の大将的性格であったアンディとトッドはアルバムの制作中に激しく衝突し、口論を繰り返したという。
アンディの歌に対しトッドは「ひどいもんだな。俺が歌ってやるから、それに合わせて歌ってみろ」と言い、アンディは「貴様の頭を斧で真っぷたつにしてやる」と凄んだと言う。まるでスタジオ内に二人のヒトラーがいるようだった、全員よく正気を保っていられたものだ、と他のメンバーは回想している。
しかしそんな地獄のスタジオで作られたアルバム『スカイラーキング』は、XTCの最高傑作と、高く評価された。
プロデューサーとバンドのリーダーが罵り合い、修羅場と化した現場から生まれたとはとても思えないほど、全体にまとまりがあり、クールなのに暖かみもある、美しいアルバムだ。
80年代のど真ん中でありながら、あのチャラチャラピコピコした80年代サウンドではまったくなく、シンセを使いながらも、安っぽさのまるでない重厚なサウンドに仕上がっている。60年代のサイケデリック・アルバムや、ビートルズの『リヴォルヴァー』、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』、キンクスの『ヴィレッジ・グリーン』なんかを想起させる作品となった。
決して派手ではないが、洗練された上等な味わいである。およそ50分間、絶妙に良い湯加減の温泉に浸かっているような穏やかでリラックスした気分になれる。
本作はXTCの8枚目のアルバムとして1986年10月にリリースされた。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 サマーズ・コールドロン
2 グラス
3 ザ・ミーティング・プレイス
4 スーパー、スーパーガール
5 バレエ・フォー・ア・レイニー・デイ
6 1000アンブレラズ
7 シーズン・サイクル
SIDE B
1 アーン・イナフ・フォー・アス
2 ビッグ・デイ
3 アナザー・サテライト
4 マーメイド・スマイルド
5 ザ・マン・フー・セイルド・アラウンド・ヒズ・ソウル
6 ダイング
7 サクリフィシャル・ボンファイアー
しかし、レコード会社の思惑通りとはいかず、イギリスのアルバムチャートでは90位と過去最低の成績となった。
XTCの解雇は決まったかに見えたが、しかしそれを救ったのが思わぬ伏兵であった。先行シングルとしてリリースされた「グラス」のB面に収録された曲、「ディア・ゴッド」だった。
アンディが書いた反キリスト教的な内容の曲だったが、作者本人もあまり気に入っておらず、トッド・ラングレンもこれを嫌ったため、アルバムには収録されなかった。
しかし、米国のカレッジ・ラジオの学生DJたちが「ディア・ゴッド」を気に入り、繰り返しオンエアしたところ米メイン・ストリーム・ロックのチャート37位まで上昇し、米国では5年ぶりのチャート入りとなった。
レコード会社はあわてて米国盤『スカイラーキング』から「マーメイド・スマイルド」を外し、替わりに「ディア・ゴッド」を収録して再リリースすると、アルバムは全米70位まで上昇した。
結局、何枚売れたのかは調べてもよくわからなかったが、その後も2作がヴァージンからリリースされているところを見ると、なんとか7万枚は超えたのだろうと思う。
↓ 当初はシングルB面曲だったが思わぬヒットとなり、後にアルバムにも収録されることとなった「ディア・ゴッド」。しかしその反宗教的な内容から、ラジオ曲に爆破予告が届くなど、物議を醸した。
↓ 本作中、最もストレートなポップ・ソングとも言える「アーン・イナフ・フォー・アス」。当時、経済的余裕がなかったアンディだったが、「貧しくても愛があればなんとかやっていけるよ」と結婚生活について歌ったラヴ・ソングだ。
(Goro)