The Cure
“The Head On The Door” (1985)
初期のキュアーはあまりにも暗いので、フロントマンでソングライターのロバート・スミスは何かしらの病気なのかしらと思ったものだった。
しかしこの6枚目のアルバムで彼は突然、病が快癒したように、明るく情緒豊かな、バラエティに富んだ楽曲をズラリと並べてみせたのだった。
いや、もしかすると最初から、キャラ付けのために病気のフリをしていただけなのかもしれない。なにしろ、彼らがデビューした1979年のイギリスはポスト・パンク時代の真っ只中で、暗ければ暗いほど称賛され、明るければ明るいほど馬鹿にされるような時代だったのだ、
時代は変わり、レコード・セールスが頭打ちになってきたので、そろそろ暗黒キャラに限界を感じてきたのかもしれない。限界キャラをさっさと捨てて、本気で取り組まないとマズいことになりそうだぞ、などと思ったのかもしれない。
初期からのキュアーのファンには、「暗いロバちゃんのほうがヤバくて好きだった」と失望した人も多かったのかもしれないけれども、わたしはプロらしいミュージシャンの顔に切り替えてみせた当時26歳のロバくんの明るい笑顔のほうに喝采を送りたくなる。
ロバスミは本作を作るにあたって、全曲異なるサウンドにすることを意識したという。彼は以下のように語っている。
「このアルバムは自分の頭の中の引き出しを全部開けて、中身を一気に見せたようなもの。全曲の雰囲気がバラバラなのは意図的だった」(ローリング・ストーン誌インタビュー 1985年9月)。
彼の意図の通りに、ゴス、ポップ、フラメンコ、ジャズ、シンセ・ポップ、オリエンタル風、ニュー・オーダー風などが混在し、「ポップ・コレクション」とも評された本作は、1985年8月にリリースされ、過去最高となる全英7位を記録した。そして全米59位と、初めての全米チャートTOP100入りも果たした。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 インビトゥイーン・デイズ
2 キョート・ソング
3 ザ・ブラッド
4 シックス・ディファレント・ウェイズ
5 プッシュ
SIDE B
1 ザ・ベイビー・スクリームス
2 クロース・トゥ・ミー
3 ア・ナイト・ライク・ディス
4 スクリュー
5 シンキング
オープニングでいきなり「OPEN!」の明るいネオンサインがパッと灯るようなA1「インビトゥイーン・デイズ」が嬉しく、気分を高揚させてくれる。この曲はシングル・カットされて、全英15位のヒットとなった。
一風変わったダンス・ビートのB2「クロース・トゥ・ミー」も全英24位まで上がったが、切ないキュアーが顔を出したようなB3「ア・ナイト・ライク・ディス」なんかもわたしは好きだったりする。
楽曲も粒揃いだけれども、とにかくアレンジがよく練られていて、すごくプロフェッショナルな仕事をしていると感じさせる。それだけでも最後まで飽きずに面白く聴ける。
キュアーを初めて聴く人にも薦めたいアルバムだけれども、しかし頼むから、「これのどこが明るいの?」と訊くのだけはやめてほしい。
↓ キュアーが暗黒キャラから抜け出した、軽快なヒット・シングル「インビトゥイーン・デイズ」。
↓ キュアーの中でもかなり風変わりで個性的なシングル。音を極端に削ぎ落とした「クロース・トゥ・ミー」。
(Goro)