【映画】『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2024 米)

名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN | Searchlight Pictures Japan

⭐️⭐️⭐️⭐️

『名もなき者』/ A COMPLETE UNKNOWN(2024 米)
“A Complete Unknown”

監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、他

ボブ・ディランの若い頃を描いた音楽伝記映画だ。

別に『ものまね王座決定戦』じゃないのだから、伝記映画の登場人物が本人に似ている必要は必ずしもないのだけれども、それでもやっぱり似ているとなんとなく嬉しいものだ。

主演のティモシー・シャラメは、ポスターなんかで見るとそんなにディランに似ているようには見えないのに、あのディラン独特の上目遣いの表情や、タバコの吸い方、歩き方なんかを巧みに演じて、ちゃんとディランに見えてくるから大したものだ。

そのうえ歌も吹替ではなく自分で歌っていて、特に「時代は変わる」なんかはそっくりに聴こえたものだ(聴き比べたら違うのだろうけれども)。

過去には演じられたディランが変すぎて全然話が入ってこない映画もあったので、とりあえずちゃんとしたディランでよかった。

音楽伝記映画では、恋愛やドラッグ問題などのプライベートを中心に据えたものよりも、名曲や名盤の制作過程やミュージシャンとの交流が多く描かれたものがわたしは好きだけれども、その点でもこの作品は満足できた。曲を歌うシーンも多かったし、ウディ・ガスリーやピート・シーガー、ジョニー・キャッシュなどのミュージシャンとの関係性も一歩踏み込んだ描き方がされていて、興味深かった。

恋愛関係の方も、女性に影響されやすく、優柔不断で、ウジウジくよくよしてるのがいかにもディランという感じで面白い。個人的には、嫌いなジョーン・バエズが若干感じ悪く描かれていたのもよかった(彼女は存命だけど大丈夫なのかな)。

物語は1961年にディランがニュー・ヨークに出てきたところから、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでのあの有名な騒動までで、これはマーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー映画『ノー・ディレクション・ホーム』で描かれた期間とまったく同じである。

その生涯を2時間のダイジェストのように駆け足で辿った物語ではなく、たった4年間の話だからこそ良い具合に深掘りできて、物語としても楽しめるものになっているのだが、この調子でわたしはさらにこの続きが見たい。

なにしろ、ディランの人生はまだここから60年以上残っているのである。『スター・ウォーズ』みたいに9部作ぐらいまで作り続けて欲しいものだ。

とりあえず「エピソード2」は、66年にディランがサラ・ラウンズと結婚して、その直後にバイク事故で大怪我を負い、隠遁生活に入るところから物語を始めてほしいな。それからザ・バンドと出会ってセッションしたり、ナッシュヴィルへ行ってカントリーに接近したりするものの、レコード・セールスは不調の一途を辿り「ディランはもう終わった」などと酷評され、低迷の時代が続く。ラストはそれを乗り越えての、74年の全米ツアー『偉大なる復活』のライヴシーンかな。

そして「エピソード3」は『血の轍』の制作シーンから始まり、サラとの結婚生活が破綻して、、、と妄想は膨らむばかりだ。

(Goro)