Big Star
“#1 Record” (1972)
ビッグ・スターを聴くと、熱い想いとせつない想いが同時にこみあげてくるような気分になる。
熱い想いは、商業的な成功を得られないまま解散してしまったものの素晴らしいアルバムを残した、真に伝説的と呼ぶにふさわしいバンドだからであり、せつない想いは、それを知る人にいまだかつてひとりも会ったことがなく、その思いを誰とも共有することがないからだ。
70年代前半に活動したメンフィス出身のバンド、ビッグ・スターは、そのバンド名が皮肉としか思えないほど、ビッグでもなければスターでもないバンドだ。
しかしパワー・ポップの元祖として90年代にティーンエイジ・ファンクラブやR.E.M.が影響を公言するようになるとその名が広まり、わたしも輸入盤ショップで彼らが残した3枚のアルバムを手に入れた。わたしはどのアルバムもとても気に入った。
米テネシー州メンフィスというカントリー・ミュージックの聖地に生まれながら、ブリティッシュ・ビートを熱烈に愛した20歳の二人の若者、アレックス・チルトンとクリス・ベルは、1971年にバンドを結成した。
二人はヴォーカルとギターとソングライティングを共に担当し、ベースにアンディ・ハメル、ドラムにジョディ・スティーヴンスを迎えた。バンド名は、近所のスーパーマーケットの名前を取って、ビッグ・スターと名付けた。
本作は1972年4月にリリースされた、ビッグ・スターの1stアルバムだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 Feel
2 The Ballad of El Goodo
3 In the Street
4 Thirteen
5 Don’t Lie to Me
6 The India Song
SIDE B
1 When My Baby’s Beside Me
2 My Life Is Right
3 Give Me Another Chance
4 Try Again
5 Watch the Sunrise
12 St 100/6
清潔なハーモニーと情熱的なヴォーカル、甘く物悲しい英国風のポップセンスを纏った楽曲が並ぶ傑作である。
アルバムの評価は当初から高かったものの、しかしレーベルの宣伝不足、少なすぎた流通量のせいで1万枚も売れず、そのせいで初期メンバーだったクリス・ベルは脱退してしまう。
こうなるとアルバムタイトルもバンド名も、なんだか寒いジョークのように思えてくる。
収録曲では、クリス・ベル作のパワー・ポップの「Feel」「In the Street」なども良いが、わたしはやはり彼らの泣きメロが好きなので、アレックス・チルトン作の「The Ballad of El Goodo」や「Thirteen」などに特に魅かれる。
「Thirteen」は、これからデートに行こうとしている若い男女の会話のような歌だ。
「あなたのうざったいお父さんに、Paint it Blackを教えてあげて。ロックンロールはもうすっかり根付いてるんだから」と歌う。チルトンの熱心なブリティッシュ・ビート愛が垣間見える曲だ。
ちなみにジャケットは、そのスーパーマーケットの看板をそのまま使ったものである。
↓ アレックス・チルトン作のパワー・ポップ風バラード「The Ballad of El Goodo」。
↓ 一見地味ながら強く印象に残るメロディの、いかにもチルトンらしい名曲「Thirteen」。
(Goro)