1990’s
年代別に必聴の究極名盤を10枚ずつ選ぶシリーズの最終回、1990年代編です。
90年代はインディーズ・レーベルのアーティストたちによるオルタナティヴ・ロックが台頭し、80年代に隆盛を極めたMTVを中心としたメインストリームの、華やかで商売っ気たっぷりのロックをガンガン駆逐していった。
91年のニルヴァーナの大ブレイクが象徴したように、ロックは本来のアグレッシヴな熱量や実験精神を取り戻し、轟音ギター・ロックを中心に、グランジ、ミクスチャー、シューゲイザー、パワー・ポップ、インダストリアル、ロー・ファイ、ブリット・ポップ、メロコア、エモ、ポスト・ロック、ヘヴィ・ロックなど、百花繚乱に咲き誇り、90年代ロックは大きな盛り上がりを見せた。
そんな90年代ロックを代表する、必聴名盤10組10枚です。
(※以下、リリース順)
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』(1991)
Red Hot Chili Peppers “Blood Sugar Sex Magik”
ワーナーに移籍し、当時28歳の鬼才プロデューサー、リック・ルービンを迎えて制作されたこの5thアルバムでレッチリは大ブレイクを果たした。
パンクやハード・ロックをベースに、ヒップホップやファンクと融合させた独特のミクスチャー・ロックが完成し、彼らの唯一無比のスタイルとなった。
「ギヴ・イット・アウェイ」「アンダー・ザ・ブリッジ」(全米2位)など大ヒット曲も生まれた。
『スクリーマデリカ』(1991)
Primal Scream “Screamadelica”
デビュー以来アルバムごとにその音楽性をガラリと変えて楽しませてくれていたプライマルの3rdは、「ムーヴィン・オン・アップ」のような米国南部の香り漂う60年代末のローリング・ストーンズを想起させる楽曲から、サイケ風の異形の楽曲「ハイヤー・ザン・ザ・サン」、アシッド・ハウス風の「ローデッド」まで、一見様々な音楽スタイルのごった煮のようにも見える。しかしどこか60年代末のロック黄金時代の実験精神やルーツ・ミュージックへの回帰のあの感じが全体を貫いていて、まるで斬新なコンセプト・アルバムのようでもあるのだ。
『ラヴレス』(1991)
My Bloody Valentine “Loveless”
このアルバムもまた90年代を象徴する、轟音ギターとフィードバック・ノイズに覆われた美しくもグロテスクな新世界への誘いだった。耳をつんざくノイズの彼方にかすかに聴こえる弱弱しい声のどこか甘いメロディは、霧の向こうの桃源郷のようでもあった。
2年半をかけて19か所のスタジオを使用し、5千万円近くにものぼる制作費を使い、クリエイション・レーベルを倒産寸前に追い込んだという伝説も超ド級の、歴史的名盤だ。
『ネヴァーマインド』(1991)
Nirvana “Nevermind”
90年代のオルタナティヴ・ロック革命を象徴する歴史的名盤。ニルヴァーナにとっては2枚目のアルバムで、これがメジャー・デビュー作となった。
カート・コバーンの天才的なソングライティングによるフックのある歌メロと、ドラムがデイヴ・グロールに交替したことでさらに強靭になったバンドサウンドをブッチ・ヴィグのプロデュースが見事に聴きやすくまとめている。
「スメルズ・ライク・ティーンスピリット」(全米6位)、「カム・アズ・ユー・アー」「リチウム」などのシングル・ヒットも生み、アルバムは21世紀になっても売れ続け、累計3,000万枚を超えている。
『アクトン・ベイビー』(1991)
U2 “Achtung Baby”
前作『ヨシュア・トゥリー』のシリアスなでスケールの大きな世界観と、時代を超越したような力強く美しくムダのないサウンドから一変し、打ち込みのダンス・ビートなども使用した華やかでモダンでポップなアルバムとなった。U2のこの激変に当時は賛否両論があったが、当時のロック・シーンの流れに完全に共鳴している変化であり、わたしなどは疑問を挟む余地もなく大歓迎大興奮だった。
とにかく楽曲が豊かで素晴らしく「ザ・フライ」(全英1位)、「ワン」(全英7位)、「ミステリアス・ウェイズ」(全米9位)「リアル・シング」など5曲がシングル・カットされ、U2史上最も多くのシングル・ヒットを生んだアルバムとなった。
『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』(1992)
R.E.M. “Automatic for the People”
R.E.M.の8作目にして最高傑作となった名盤。前作の明るいポップな印象とは真逆のひどく暗い印象のアルバムだが、しかしその暗さは気の滅入るような質のものではなく、エモーショナルで誠実で美しく、世界の深淵を覗くような圧倒的な凄味もある。
「ドライヴ」「マン・オン・ザ・ムーン」「エヴリバディ・ハーツ」「ナイトスウィミング」などシングル・ヒットにもなった彼らの代表曲の数々が収められている。
『ドゥーキー』(1994)
Green Day “Dookie”
グリーン・デイの3rdアルバムで、メジャー・デビュー作。「バスケットケース」「ロングヴュー」「ウェルカム・トゥ・ザ・パラダイス」など5曲のシングル・ヒットを生み、1,500万枚以上を売り上げる大ブレイク作となった。新しい世代のパンク・ロックとして新たな潮流をつくった。
この年のカート・コバーンの自殺で一気に盛り下がりかけたロック・シーンをなんとか次に繋いだのは、米国ではグリーン・デイ、英国ではオアシスの登場だったのだ。
『モーニング・グローリー』(1995)
Oasis “(What’s the Story) Morning Glory?”
全世界で2,500万枚を売り上げ、オアシスがロック界の頂点に立った、圧倒的な名盤。
90年代ロックの象徴でもあるラウドなギター・ロック・サウンドとノエル・ギャラガーによる天才的なソングライティングが光る数々の名曲によって、ロック史上でも数えるほどしかないほどの別格的な内容の名盤だ。
「ワンダーウォール」(全英2位、全米8位)「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」(全英1位)など世界的ヒットも生まれ、90年代中期のブリット・ポップ・ムーヴメントを牽引した。
『メロンコリーそして終わりのない悲しみ』(1995)
The Smashing Pumpkins “Mellon Collie and the Infinite Sadness”
CD時代に移行してからは2枚組のオリジナル・スタジオアルバムというのもめったになくなっていたが、スマパンのこの3rdはCD2枚組28曲121分と、LP時代であればクラッシュの『サンディニスタ!』以来の3枚組となったとてつもない大作だった。
聴くほうもかなり体力のいるアルバムだが、ビリー・コーガンの天才と狂気の両方が爆裂したとしか言いようがない恐ろしいほど内容の濃い、充実した作品であり、「1979」(全米12位)「ゼロ」などのヒット曲も生まれた。そしてアルバムは、まさかの全米1位の大ヒットとなった。
『OKコンピューター』(1997)
Radiohead “OK Computer”
前作『ザ・ベンズ』も素晴らしいロック・アルバムだったが、この3rdアルバムはそのロックが臨界点に達し、発狂して死にゆく様を見ているような、この世のものではないあの世のような、美しさとおぞましさとぶっとんだカッコ良さに満ちた、異形の名盤となった。
「パラノイド・アンドロイド」「カーマ・ポリス」などの代表曲も生まれ、レディオヘッドをロック・シーンで最も注目される存在へとブレイクさせた。
以上、1990年代の【必聴名盤10選】でした。
当時、20代の青春ど真ん中だったわたしは、次から次へと出てくる新しいロックに興奮しながら、おかげで刺激的な毎日を送ることができた。
ここに選んだアルバムをすべてリアルタイムで楽しむことができたことは幸運の極みだったと思う。この時代にロックを聴いていてホントに良かったと、当時も思っていたが、今でもあらためてしみじみ思うのだ。
(Goro)