トム・ウェイツ『クロージング・タイム』(1973)【最強ロック名盤500】#195

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【最強ロック名盤500】#195
Tom Waits
“Closing Time” (1973)

米カリフォルニア州ポモナ出身のトム・ウェイツは、16歳で高校を中退すると、ピザ屋の店員として働きながら、そこに訪れる客の会話や、夜の街の人々の生活などを歌詞にして、曲を書いた。彼はロックには興味がなく、ジャズやR&B、フォークを好んだ。

1972年、彼は24歳で、ウェストハリウッドのクラブ、ザ・トルバドールで毎週月曜日に出演し、ボブ・ディランや自作の曲を演奏した。

ある夜、アサイラム・レコードの創立者、デヴィッド・ゲフィンがクラブに現れた。ゲフィンはトムの「グレープフルーツ・ムーン」を聴いて驚き、すぐに彼にレコード契約を申し込んだ。

本作はそのアサイラムから1973年3月にリリースされた1stアルバムだ。

このアルバムは当初はあまり売れなかったらしいが、名曲が何曲も詰まった素晴らしいアルバムだ。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 オール’55
2 恋におそれて
3 ヴァージニア・アヴェニュー
4 オールド・シューズ
5 ミッドナイト・ララバイ
6 マーサ

SIDE B

1 ロージー
2 ロンリー
3 アイス・クリーム・マン
4 愛の翼
5 グレープフルーツ・ムーン
6 クロージング・タイム

A1「オール’55」はシングル・カットされ、イーグルスがカバーしたことでも知られる、トム・ウェイツの代表曲だ。A6「マーサ」も名曲で、これはティム・バックリィによってカバーされた。

そして、わたしが昔から最も好きな曲が、ゲフィンを驚かせたのと同じ「グレープフルーツ・ムーン」である。この曲はできれば少し、酔っぱらって、窓から月でも眺めながら聴きたいものだ。

トム・ウェイツの歌を聴いていると、アメリカの田舎町で冴えない人生をほどほどにまっとうして消えていく「普通の人々」に想いを馳せてしまう。

退屈と閉塞感に満ちた人生、パッとしない恋愛やうまくいかない結婚生活、思うようにいかない貧しい暮らしと慢性的なフラストレーション、わたしは歌詞もよくはわかっていないけれども、本作を聴きながら、そんな人々のささやかな人生を想像する。

そしてわたしもまた、このまま今の住処である地方都市で、ほどほどの喜怒哀楽とともに人生をまっとうするだろう。

全国チェーンのお店が国道の両側に並ぶだけの、どこにでもある地方の町と、そこに住む人々の暮らしにわたしは興味やシンパシーを強く感じる。映画なら洋画でも邦画でも、ただ地方の町が舞台だというだけでついつい惹かれて見てしまったりする。小説でもそんな作家の作品が好きだった。たとえば、レイモンド・カーヴァーや、チャールズ・ブコウスキーのような。

わたしはたまたま今は普通に暮らせているし、明日の仕事もあるけれども、こんなものは偶然にすぎず、ひとつ間違えばまともな生き方もできていなかった可能性もあっただろうと思っている。ひどく貧しい暮らしはしていないが、していてもおかしくはなかった。ひどく絶望的な人生を送ってはいないが、していてもおかしくはなかった。そしていつでもこの生活は、ご破算になる可能性もある。

人生は紙一重だ。
ある分岐点でちょっと頑張ったとか、あるいはちょっと運が良かったとか悪かったとか、うっかりしていたとか、よくわかっていなかったとか、そんな程度で人生は大きく変わってしまう。

わたしはトム・ウェイツの音楽を昼間に聴くことはあまりない。必ず夜に聴く。
苦渋に満ちた声で歌われる美しいバラードを夜中に聴いていると、ついいろいろなことを考えてしまう。

同じ夜の、グレープフルーツのような月の下で、平凡な夜を送っている何不自由ない人々、まだ働いている人々、ベッドで抱き合っている人々、仕事にうんざりしながら孤独に夜を送る人、泣きながら夜を過ごす人、眠れない夜を過ごす人、公園の駐車場に停めた車の中で眠る人。みんな、何を想いながら生きているのか。

いつのまにか音楽は終わっていて、考えるのをやめる。そして眠りに就く。

わたしはわたしでまた明日も、このただ食い繋いで行くための生活を続けるために、面白くもなんともない仕事に行かなくてはならないからだ。

↓ イーグルスがカバーしたことでも知られる代表曲「オール’55」。

↓ わたしが最も好きな曲「グレープフルーツ・ムーン」。

(Goro)

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