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The Byrds
“Fifth Dimension” (1966)
1966年7月にリリースされた、ザ・バーズの3rdアルバムだ。
それまでバーズのメイン・ソングライターだったジーン・クラークが脱退した直後に制作されたアルバムである。曲を書くことになったのは、ロジャー・マッギンとデヴィッド・クロスビーだった。
それだけでもバーズにとっては新たなチャレンジだったが、さらにこれまでどちらかというとオリジナル曲よりも印象の強いレパートリーだった、ボブ・ディランのカバーも無くなった。
結果的に出来上がったアルバムは、それまでのバーズの爽やかで快活なフォーク・ロックのイメージとはかけ離れたものになった。曲想に統一感がなく、方向性を見失ったかのように思えなくもない。だからだと思うが、それまでで一番売れず(全米24位、全英27位)、評論家からも酷評された。
それでもわたしはこのアルバムが好きである。
いかにもバーズらしいフォーク・ロック・サウンドで統一感のある前作『ターン・ターン・ターン』よりも、色々な意味でずっと面白い。
全12曲中、カバーが4曲で、あとはオリジナル曲だ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 霧の5次元
2 ワイルド・マウンテン・タイム(トラディショナル)
3 ミスター・スペースマン
4 アイ・シー・ユー
5 ホワッツ・ハプニング
6 死んだ少女(ピート・シーガー)
SIDE B
1 霧の8マイル
2 ヘイ・ジョー(ザ・リーヴス)
3 キャプテン・ソウル
4 ジョン・ライリー(トラディショナル)
5 ジェット・ソング
最も有名なのは全米14位のヒットとなったB1「霧の8マイル」だろう。
コルトレーンを手本にしたというロジャー・マッギンの痙攣したような異様なギターソロを含むこの曲は、サイケデリック・ロックの起源とも言われている。しかし、ドラッグでハイになることを連想させるとして当時は放送禁止となった。
わたしが一番好きなのは、全米44位とあんまりヒットしなかったA1「霧の五次元」だ。
ロジャー・マッギンが書き、歌った曲だが、ディランをリスペクトしてカバーしまくったあまり、作風も歌い方もディランの弟子みたいになっていて、かなりいい感じに出来上がっている。
こちらも全米36位とあまりパッとしなかったシングル「ミスター・スペースマン」もマッギンの作だが、こちらはカントリー・ロックへの第一歩とも言える作風で、これもまた画期的な楽曲だ。
デヴィッド・クロスビーの作A5「ホワッツ・ハプニング」も悪くない。耳に残る曲だ。
そのクロスビーが歌ったカバー「ヘイ・ジョー」は、後のジミヘンによるスローなバージョンが有名だが、こちらの疾走感あふれるバージョンもいい。妻を刺殺して逃走する男の歌なので、その焦燥感みたいなものが伝わってくる感じだ。
そしてピート・シーガーのカバー「死んだ少女」は、広島に落とされた原爆で死んだ7歳の少女が、幽霊となってあちこちの家の戸を叩きながら、二度とこんなことが起きないようにと訴える歌だ。たぶん、アメリカのバンドがそんな歌を歌うということは極めて反体制的であり、だいぶ腹を括らないとできないことだろうと思われる。
ジーン・クラークの脱退によるバンドの変化は、たぶん意図したものではなかったにしろ、バーズに新たなオリジナリティと成長をもたらしたと思う。怪我の功名というか、混乱の果てに偶然生まれた名盤という感じがする。
このあたりからバーズのセールスは次第に落ちていくのだが、しかしロック・シーンへの影響力という点ではむしろ存在感を増していくことになる。
↓ ディランの一番弟子として立派に成長したロジャー・マッギンによる「霧の五次元」。
↓ “サイケデリック・ロックの起源”とも言われる「霧の8マイル」。
(Goro)