寂寥感漂うロックの果ての世界 〜レディオヘッド『ザ・ベンズ』(1995)【最強ロック名盤500】#47

The Bends [国内盤 / 解説・歌詞対訳付] (XLCDJP780)

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#47
Radiohead
“The Bends” (1995)

死にかけているようにも見えれば、エクスタシーに達しているようにも見える、ジャケットの救命訓練用人形のなんとも言えない表情がアルバムの内容によく合っていると思う。

1995年3月にリリースされたレディオヘッドの2ndアルバム『ザ・ベンズ』だ。

前作の1st『パブロ・ハニー』はシングル・カットされた「クリープ」が全英7位とヒットしたが、アルバムは22位とそこまで伸びず、内容も流行の音をなぞってはいるもののオリジナリティには乏しく、発展途上の感があった。

本作は制作が難航して一旦中止に追い込まれ、プロデューサーがジョン・レッキーに替わってレコーディングが再開された。そして「メルトダウン状態だった」と自身で語るほど苦悩していたトム・ヨークにレッキーはジェフ・バックリィのライヴを観に行くよう薦めたという。
「天使の歌声」とも評されたジェフの歌声を聴いてトムは開眼し、一気にレコーディングが軌道に乗った。

本作で初めて聴かせたトム・ヨークの、死にかけみたいに弱々しいがしかし純粋で美しい、心に突き刺さってくるヴォーカルに、わたしは新しいロックの世界を聴いた気がした。

そしてバンドの音楽性を決定づけているもうひとりの天才、ギターのジョニー・グリーンウッドによる、トムと寄り添い一緒に歌うような優しいギターとすべてを切り裂くような凶暴なギターのコントラストがアルバムにメリハリと緊張感を与え、さらに全編を通奏するアコースティック・ギターが豊かな音楽を奏で、聴く者の心を震わせる。

1 プラネット・テレックス
 2 ザ・ベンズ
 3 ハイ・アンド・ドライ(全英17位)
 4 フェイク・プラスティック・トゥリーズ(全英20位)
 5 ボーンズ
 6 ナイス・ドリーム
 7 ジャスト(全英19位)
 8 マイ・アイアン・ラング(全英24位)
 9 ブレットプルーフ…アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ
10 ブラック・スター
11 サルク
12 ストリート・スピリット(全英5位)

3,4,7,8,12と5曲がシングル・カットされ、アルバムは全英4位のヒットとなった。

わたしは実を言うとレディオヘッドは「クリープ」に衝撃を受けたものの、それ以降は追っかけていなくて、本作もリアルタイムでは聴いていなかったのだけれども、定期的に買っていた英インディーズ・シングル集のコンピで「フェイク・プラスティック・トゥリー」を聴いて、わたしは胸を貫かれた。それから本気でレディオヘッドを聴くようになったのだ。本作では特にスローな楽曲、3,4,6,8,9,12などにわたしは惹かれる。

彼らはこの作品で、レディオヘッドの新世界を確固たるものとして創造した。
それはロックが行き着いた、長い長いカーニバルが終わった翌朝の、この世の果てのような寂寥感が漂う世界でもあった。

そしてこの後レディオヘッドは、ジョン・レッキーがこのとき雑用係として連れてきた人物、ナイジェル・ゴッドリッチと共に、ロックの彼岸を越えることになる。

↓ 全英17位のヒットとなった「ハイ・アンド・ドライ」。

Radiohead – High and Dry

↓ わたしの胸を貫いた名曲「フェイク・プラスティック・トゥリーズ」。

Radiohead – Fake Plastic Trees

(Goro)