Pixies
“Doolittle” (1989)
ロックバンドには、ビジュアルも重要な要素である。
たぶんこのピクシーズは、【最強ロック名盤500】に選出されるロックバンドの中では、ビジュアルだけで言えば最下層の部類に入るだろう。
リーダーのブラック・フランシスはハゲでデブで性格の悪い、悪の化身のような男である。
ベースのキム・ディールは可愛らしい声の女子だが、ドッジボールが強そうな筋肉質であり、華やかさにはもうひとつ欠ける。
あとのふたりの、ビルの清掃業者のような男子はもう顔も覚えられないほど存在感が薄い。そしてまたどちらも若い頃からハゲかかっていて、再結成時には男子は全員ハゲだった。
これで「ピクシーズ=妖精」などという名前をよくつけたものだと思う。
そんな、見た目から言えば到底世に受け入れられそうにないバンドが、しかし素晴らしい音楽を奏でた。
彼らの音楽には、ラウドなギターとポップなメロディー、静寂と轟音のメリハリ、爽やかなユーモア、そして顔に似合わぬチャーミングな愛らしさがあった。
そう、音楽だけ聴けば「ピクシーズ=妖精」という名前もあながち悪ふざけでもないように思える。
【オリジナルCD収録曲】
1 ディベイサー
2 テイム
3 ウェイブ・オブ・ミューティレイション
4 アイ・ブリード
5 ヒア・カムズ・ユア・マン
6 デッド
7 モンキー・ゴーン・トゥ・ヘブン
8 ミスター・グリーブス
9 クラキティ・ジョーンズ
10 ラ・ラ・ラブ・ユー
11 13番目のベイビー
12 ゼア・ゴーズ・マイ・ガン
13 ヘイ
14 シルバー
15 ガウジ・アウェイ
なにより彼らの音楽は、まったくカッコつけていない自然体の音楽だった。
自然体の音楽、なんて今だからこそふつうの言葉に聞こえるが、当時、そんなものはわたしには初めて聴くような新鮮な感覚だったのだ。
もう、いわゆるロック的なものにわたしはうんざりしていた。
セックス、ドラッグ&ロックンロールのような、大昔からの定型を真似、カッコつけて満足している「ロックスター」たちにうんざりしていた。ダセぇ、と思っていた。
ピクシーズにはそれがなかった。
彼らがどんなにカッコつけたってモテるわけもない。そして、初めからモテようなどと思わずにつくったロックというのはやはりちょっと違うのだ。
やけくそのように開き直った、なりふり構わぬパワーというか、そういうものもロックに必要なのだとは、わたしは考えたことがなかった。画期的だった。
彼らはモテようとは思わなかっただろうけど、ウケようとは思ったかもしれない。
わたしは大いにウケた。
わたし以外にも大いにウケたらしく、1989年4月にリリースされた2ndアルバム『ドリトル』を出したころにはインディ好き界隈では人気が急上昇していった。ニルヴァーナが登場する前、あの革命前夜に、あの界隈で最も熱烈に支持されていたバンドは間違いなくピクシーズだった。
ピクシーズの登場以降「カッコつけてるアーティストは不細工なアーティストよりもカッコ悪い」という真理が共有されるようになった。
80年代に栄華を極めたヘアスプレー系ライト・メタル・バンドたちが、90年代以降、急速に表舞台から姿を消していったのは、ピクシーズがドアを蹴破り、ニルヴァーナがとどめを刺したせいである。
本作はインディ系ながら、全英チャート8位まで上昇するヒットとなった。
わたしは本作が、ピクシーズのアルバムでは一番好きだ。
↓ デブのこめかみの血管が2,3本は弾け飛んでそうな、ユーモラスでありながら、とんでもなくカッコいい、新時代の幕開けを告げたブチギレ・ポップ「ディベイサー」。
↓ 先行シングルとしてリリースされた「モンキー・ゴーズ・トゥ・ヘヴン」。米オルタナティヴ・チャートの5位まで上がる、初のシングル・ヒットとなった。
(Goro)
コメント
ようやくピクシーズにたどりつきました。R.E.Mから近いようで遠かったです。
のめり込む感じではないですがさすがの名盤ランキング常連って感じです。
youtubeなどで拝見するとライブバンドではなかったんだなーと思ってしまいます。
ハスカードゥの親しみやすい部分を切り取った感じもままあります。
いやいや、理屈ぬきでかっこいいです。
サカモトさん、コメントありがとうございます!
ピクシーズはカッコよかったですね。
あの当時のわれわれが求めていたロック、まさに「これこれ、こういうのだよ、聴きたいのは!」という感じでした。
「ハスカードゥの親しみやすい部分を切り取った感じもままあります」というのは確かにそうですね。ハードコアをずっと聴きやすく、親しみやすくしてくれた感じです。