1996
イギリスは前年に引き続き”ブリット・ポップ”で賑やかだったが、しかしこのムーヴメントには批判的な意見も多くみられた。
シーンを牽引した才能豊かな一部のアーティストたちはともかくとして、ブームに乗じて次から次にデビューしてくる新人たちにはただ過去のブリティッシュ・ロックの下手な真似事をしているだけで、創造性のかけらもないものも多かったのだ。その意味で、ムーヴメントは非常に商業的な意味合いが強くなっていったし、アメリカではほとんど受け入れられることはなかった。
その中で、マニック・ストリート・プリーチャーズは、ギタリストのリッチーの失踪という悲劇に見舞われた後に3人での再出発となったが、デビュー当時のやんちゃなイメージからするとすっかり心を入れ替えて更生したような、その真摯な音楽は圧倒的な支持を得、次第に国民的ロックバンドとしての存在感を強めていった。
アメリカではオルタナティヴ・ロックの流行もすでに翳りが見え始め、かわりにヒップホップが音楽シーンの話題の中心となりつつあった。
ラッパー同士の対立構造が常にニュースになり、この年の9月には2PACが何者かに射殺されるという悲劇も起こった。それはまるで暴力団の抗争事件のような、あまり音楽的ではない注目の浴び方だった。
わたしは30歳になったというのに、再就職も決まらずバイトを転々とするなど迷走していた。リアルタイムのロックにはなんだか好きになれるものが減ってきたなあとも感じていた頃だ。
そして、わたしはとある外資系のCDショップにバイトとして採用されたが、そのときもクラシック音楽の担当に応募した。そのころわたしが聴いていた音楽の割合はクラシックが8、ロックが2ぐらいだったのだ。だからこの時期のロックはリアルタイムではなく、後から聴いたものも多い。
そんな1996年のロックから10組10曲を選んでみました。もちろんここに選んだものはわたしも好きなものばかりだ。
Manic Street Preachers – A Design For Life
前年の2月、ギターと作詞担当だったリッチー・エドワーズがロンドンのホテルで宿泊中に行方不明となり、そのまま失踪扱いとなった。この4thアルバム『エヴリシング・マスト・ゴー』は3人での再出発となったアルバムだ。
アルバムからの第1弾シングルとなったこの曲は、労働者が酒場で自らの誇りについて語っている歌詞の、感動的な曲だ。ストリングスを導入したアレンジもすごく効果的だ。
この曲は幅広い支持を得、全英2位、そしてアルバムも全英2位と、彼らにとってどちらも過去最高位のヒットとなった。
Suede – Trash
スウェードのサウンドの要だったギターのバーナード・バトラーが脱退したとき、スウェードはもう終わりだなとわたしは思った。
しかしバーナード抜きで作られたこの3rdアルバムは、さらにポップなアプローチで全英1位と、起死回生の大ヒットとなり、ブリット・ポップのおチビちゃんたちとは格の違いを見せつけたのだった。
この曲はアルバムからのシングルで、こちらも全英3位のヒットとなった。
Kula Shaker – Hey Dude
ブリット・ポップの波に乗じて出てきた新人バンドは小粒で無個性なバンドが多かったが、その独特なグルーヴ感で頭ひとつ抜けていたのがクーラ・シェイカーだった。
1stアルバム『K』は全英1位に輝き、日本でもオリコン13位、25万枚を売る大ヒットとなった。
Ocean Colour Scene – The Riverboat Song
1stアルバムが全く売れず、借金まで背負ったオーシャン・カラー・シーンだったが、この2ndは全英2位という起死回生の大ヒットとなった。
ブリット・ポップのブーム真っただ中というタイミングも良かったが、BBCラジオのDJがこの曲を気に入って、繰り返し流したのも大きかったという。
往年のブリティッシュ・ロックを彷彿とさせる、ブルージーで実にカッコいい曲だ。
Lush – Ladykillers
ラッシュの3rdアルバム『ラヴライフ(Lovelife)』からのシングルで、全英22位となった。
ラッシュが作風をガラリと変え、ブリット・ポップに乗っかったなどと揶揄されたものだけれども、なに、乗っかれるものは全部乗っかったらいいのだ。そうやっていつの時代も、ロック・シーンは盛り上がってきたのだから。それにここでラッシュが見せている先輩の風格はやたらとカッコいい。わたしはラッシュではこの曲が一番好きだな。
Stereolab – Cybele’s Reverie
ロンドン出身のステレオラブの4枚目のアルバム『エンペラー・トマト・ケチャップ 』からのシングル。
ステレオラブは、当時〈ポスト・ロック〉と呼ばれたサイケやプログレ風の複雑な音楽のはしりのようなバンドだった。
60年代ロックの後も70年代ロックの後もそうだったが、ロックシーンが盛り上がった後には、必ず複雑化や解体が始まるのだ。
またしてもロックが解体屋たちに壊されていくのを見なければならないのかと、当時はあんまり積極的に聴かなかったが、今回改めて聴いてみて気に入ったのがこれだった。
複雑で前衛的で壊れかかってはいるものの、あくまでポップで美しい音楽であることを追求している。解体ではなく、リフォームしていたのだ。
Sheryl Crow – If It Makes You Happy
このジャケットが超絶カッコ良かった(ただしこれは日本盤のみ)2ndアルバム『シェリル・クロウ』からのシングルで、全米10位のヒットとなった。
彼女にはこれよりヒットした曲もあるけれども、わたしはこの「もう、、男ってホンっト、、、」みたいな、ダルそうにブチ切れてるシェリルの歌声が素晴らしい、この曲がいちばん好きだ。
Beck – Devils Haircut
フォークやカントリー、ブルースといったルーツ・ミュージックを、最新のオルタナ・ロックやノイズ・ミュージック、ヒップホップと融合させて、聴いたこともない斬新なロックを作ってしまったベックの名盤2nd『オディレイ』からのシングル。
アルバムは高く評価され、グラミー賞の最優秀オルタナティヴ・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞し、英NME誌の年間ベスト・アルバムにも選ばれた。
Rage Against The Machine – Bulls On Parade
ハード・ロックとファンクとヒップホップを融合したサウンドで過激派みたいなアジテーションをする、怒れる反体制ミクスチャー・ロックとでもいうべきレイジの2nd『イーヴィル・エンパイア』からのシングル。
「軍事力の暴走に抵抗するんだ! 立ち上がれ! 資産家どもの収奪に抵抗しろ!」と歌う、極左風の抵抗の歌だ。
Marilyn Manson – The Beautiful People
ロック史上最も気持ち悪いジャケットの、マリリン・マンソンの2nd『アンチクライスト・スーパースター』からのシングル。
ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーに見いだされたマンソンの音楽はグロテスクで狂暴なインダストリアル・ロックだ。このアルバムは全米3位の大ヒットとなった。
マンソンの人気は、きっと70年代にアリス・クーパーがティーンエイジャーたちに人気があったのと同じようなことなのだろう。80年代ならオジーやメタルだし、2000年代はスリップノットみたいな。
いつの時代もアメリカのティーンエイジャーたちはこういうおどろおどろしく気味悪いものが大好きなのだ。健全。
選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪YouTubeプレイリスト⇒ ヒストリー・オブ・ロック 1996【ポップと怒りと狂暴】Greatest 10 Songs
ぜひお楽しみください。
(by goro)