⭐️⭐️⭐️⭐️
Gram Parsons
“Grievous Angel”
米ジョージア州で育ったやんちゃな男の子、グラム・パーソンズは、カントリー・ロックのオリジネイターとして知られる。
20歳のときにインターナショナル・サブマリン・バンドを結成し、1968年5月にアルバム『セイフ・アット・ホーム』でデビューした。
ロックの基本的なスタイルに、フィドルやペダル・スティールなどの楽器と、カントリー・ミュージックの奏法や語法を取り入れ、これが世界初のカントリー・ロック・アルバムとなった。しかし、アルバム発表と同時にバンドは解散してしまう。
しかしグラム・パーソンズは、当時デビュー3年目でメンバーの脱退が相次ぎ、存続が危ぶまれていた人気バンド、ザ・バーズに加入する。
インターナショナル・サブマリン・バンドのアルバム発表からわずか3か月後、今度はザ・バーズのメンバーとして牽引的な役割を果たし、それまでのバーズのフォーク・ロックのスタイルとは明らかに違う、カントリー・ロックの歴史的名盤『ロデオの恋人』をリリースする。
この時期はもう、グラムのアドレナリンが大噴射状態だったのだろう。
そして同年、バーズの一員として英国に渡ったときに、グラムはローリング・ストーンズのキース・リチャーズと出会う。
音楽とドラッグが大好きなやんちゃな二人は意気投合し、すぐに無二の親友となる。
1968年、ちょうどストーンズが『ベガーズ・バンケット』に取り掛かった頃だ。
キースは自伝にこう書いている。
発掘中だった音楽の鉱脈を掘り当てた。
グラムとの出逢いが自分の弾くもの、書くものの領域を広げてくれたんだ。
(中略)そこから束の間の友情が始まった。長い間行方知らずだった弟と再会したような感じだった。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)
当時、迷走期に陥っていたストーンズは、ブルースだけでなく、カントリーというルーツ・ミュージックにもあらためて向き合うことで息を吹き返し、次作『レット・イット・ブリード』『スティッキー・フィンガーズ』『メイン・ストリートのならず者』とロック史上の大名盤をたて続けに発表していく。
まるであの時代、ブリティッシュ・ビート・バンドたちがコンセプト・アルバムやロック・オペラやサイケデリックなど実験的なややこしい作品を創ることを競い合っていたときに、ロックの神様が「おいおい、おまえたちロックンロールの本来の姿を忘れたのか? ロックンロールは白人のカントリーと黒人のブルースが合わさってできたものじゃ。もういっぺん基本に還れ」と言って、グラム・パーソンズという天からの使者を遣わせたかのようだった。
そして彼は、バーズとストーンズという、米国と英国の人気バンドを選んでカントリーの種を蒔き、その使命を終えたらさっさと神様の元へ帰っていってしまった。
そして、そのときのことをキースはこう書いている。
インスブルックでショーがはねた直後、俺はボビー・キーズと連れションしてたんだが、いつもならボビーはそういうとき、ひとつかふたつジョークをかます。なのに、妙に無口なんだ。しばらくしてあいつはこう言った。「あのな、悪い知らせを聞いた……GPが死んだってよ」。みぞおちに蹴りを食らったみたいな衝撃だった。俺はボビーを見た。グラムが、死んだ?(中略)俺の兄弟が。こういうのは一気に来るわけじゃない。あとからどんな動揺に見舞われるか。また親友と、おさらばかよ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)
初めてのソロ・アルバム『GP』を発表した8か月後の1973年9月19日、グラム・パーソンズはモーテルの一室で、薬物の過剰摂取でこの世を去った。
本作は彼の死の直前に完成していた2ndソロ・アルバムで、彼の死から4ヶ月後の1974年1月にリリースされた。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 リターン・オブ・ザ・グリーヴァス・エンジェル
2 ハーツ・オン・ファイア
3 アイ・キャント・ダンス
4 ブラス・ボタンズ
5 $1000ウェディング
SIDE B
1 メドレー・ライヴ・フロム・ノーザン・ケベック
(a) キャッシュ・オン・ザ・バレルヘッド
(b) ヒッコリー・ウィンド
2 ラヴ・ハーツ
3 ウー・ラスヴェガス
4 イン・マイ・アワー・オブ・ダークネス
A1「リターン・オブ・ザ・グリーヴァス・エンジェル」は「悲愴な天使が帰ってくる」みたいな意味だ。わたしはこの曲を聴くとグッときて、なんだか泣けてくる。
まさに彼は、ロックの神様の元へと還ったのだろう。使命はしっかり果たしたものの、その乱行ぶりはこっぴどく叱られたに違いない。
本作ではA2「ハーツ・オン・ファイア」やA4「ブラス・ボタンズ」、A5「$1000ウェディング」などのバラード曲が特に素晴らしい。緊張感と夢幻の美を感じる。
一緒に歌っている女性はグラムに見出された歌手、エミルー・ハリスだ。グラムは結婚していたが、エミルーとも恋人関係にあった。本作も当初、「グラム・パーソンズ&エミルー・ハリス」とクレジットされる予定だったが、グラムの未亡人の要請によって、エミルーの名前は削除されることになった。
エミルー・ハリスはこう語っている。
「彼は私の人生において永遠の恋人なの。それだけ深く影響された。死に方じゃなく、彼の音楽が伝説になるべきよ」。
↓ オープニングを飾る名曲「リターン・オブ・ザ・グリーヴァス・エンジェル」。エミルー・ハリスとのデュエットだ。
↓ これも儚いほどに美しいバラード「ブラス・ボタンズ」。
(Goro)