⭐️⭐️⭐️
Blue Cheer
“Vincebus Eruptum” (1968)
ファズ・ギターってどんな音がするんだろう、なんて思ってた君よ、この60年代ファズ・ギターのホルマリン漬けの標本みたいなこのアルバムを聴けばよくわかるぞ。
この米サンフランシスコの頭のタガが外れたような3人組は、超高純度のLSDの名前をバンド名に付け、当時流行のサイケデリック・ロックをやろうとして、とにかく馬鹿でかい音を出してみたのだ。
ギターはファズで極限まで歪ませ、ヴォーカルはやたらと叫び、ドラムはとにかく騒々しく、和太鼓ぐらい叩きまくる。その結果、サイケデリックなどという洒落たシロモノどころではない、すべてのヘヴィ・ロックの起源と言えるような、音圧重量級のアルバムが出来上がった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 サマータイム・ブルース
2 ロック・ミー・ベイビー
3 ドクター・プリーズ
SIDE B
1 アウト・オブ・フォーカス
2 パーチメン・ファーム
3 セカンド・タイム・アラウンド
しかしなんと、A1「サマータイム・ブルース」は全米シングルチャートの14位まで上がる、まさかのヒットとなった。きっと本人たちも驚いたことだろう。多くのカバーが存在するエディ・コクランの代表曲だが、中でもこのカバーは暑い夏がさらに熱く感じられる、思わず笑ってしまうほどヘヴィなことでよく知られている。
A2の「ロック・ミー・ベイビー」はブルースのスタンダードだが、あとの4曲はオリジナルである。
決して上手くはないし、6曲しか入ってないし、冗長な部分もあるにせよ、しかしこの気合の入りかたと思い切りの良さと真っ直ぐなカッコ良さは、すべてのロックバンドの手本と言えるものだ。
ヴォーカル&ベースを担当し、ソングライターでもあるフロントマンのディッキー・ピーターソンは2005年に次のように語っている。
「ロックンロールはテクニック10%とやる気90%だ。やる気十分で出した1音はやる気ゼロで出した60音にも勝るんだ」
まったくその通りだと思う。ロックにしろクラシックにしろ、わたしが常に惹かれる音楽は、やる気十分の1音を叩き出す音楽であるし、そういうのは一瞬で聴き分けられるものだ。
残念なことにディッキー・ピーターソンは2009年、63歳で肝臓がんによってすでにこの世を去っているが、彼のこの名言を、できることならロックの殿堂とやらの入り口に掲げてほしいものだ。
ちなみにミッシェル・ガン・エレファントのアルバム『チキン・ゾンビーズ』のジャケットは本作のアートワークを手本にしたものだ。彼らも好きだったんだろうな。
↓ ディッキー・ピーターソン作。彼の得意な、低音が重く垂れ下がるブルージーなヘヴィ・ロックだ。
(Goro)