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The Beatles
“With The Beatles” (1963)
十代の頃からストーンズファンのわたしには、ビートルズはなんとなくいけ好かない。
まず人気がありすぎるのが気に食わないし、変なアイドル映画はまったくしょうもない。生意気な言動は調子に乗りすぎだし、インドで瞑想とかはもうわけがわからない。
しかし悔しいが、ひとつだけ認めざるを得ないのは、あんな連中でも音楽だけは最高だということだ。
わたしは口は汚いし心はねじ曲がっているが、耳だけは9歳の少年ぐらい素直だ。
聴きながら、どうせクソつまらない曲ばかりだろうと粗探しでもしようとするのだが、耳だけは無力にも次から次に流れてくる最高の曲に聴き惚れてしまう。腹立たしいが、名盤と認めるほかないのである
本作は1stアルバムからわずか8ヶ月の間隔で、1963年11月にリリースされたビートルズの2ndアルバムだ。14曲中オリジナルが8曲、カバーが6曲は、1stとまったく同じ割合である。カッコ内はカバー元のアーティストだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 イット・ウォント・ビー・ロング
2 オール・アイヴ・ゴット・トゥ・ドゥ
3 オール・マイ・ラヴィング
4 ドント・バザー・ミー
5 リトル・チャイルド
6 ティル・ゼア・ウォズ・ユー(ペギー・リー)
7 プリーズ・ミスター・ポストマン(マーヴェレッツ)
SIDE B
1 ロール・オーバー・ベートーヴェン(チャック・ベリー)
2 ホールド・ミー・タイト
3 ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー(スモーキー・ロビンソン)
4 アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン
5 デヴィル・イン・ハー・ハート(ドネイズ)
6 ナット・ア・セカンド・タイム
7 マネー(バレット・ストロング)
このアルバムには、当時大ヒットしていた「フロム・ミー・トゥ・ユー」「シー・ラヴズ・ユー」「抱きしめたい」などのシングルは収録されていない。
しかしそれらのシングルに優るとも劣らない名曲、A3「オール・マイ・ラヴィング」が収録されている。この曲がわたしは、ポール・マッカートニーが書いた曲の中では一番好きかもしれない。
イントロなしでいきなり「Close your eyes and I’ll kiss you, Tomorrow I’ll miss you…」と若きポールの瑞々しい声で歌われる冒頭から、フックのあるメロディと言葉の絶妙なハマりかたに鳥肌が立つほどだ。
一度聴いたら忘れられず、意味はどうでもいいが、この歌詞を中毒のように口ずさみたくなる。なぜかシングル・カットはされなかったが、シングルとしてリリースしていたら大ヒットしていただろうことは疑う余地もない。ジョンが後年、この曲に関して「悔しいほどいい曲。彼は完璧な作曲の才能を持っていると感じた」と語ったそうだ。わたしもそう思う。
ジョージが書いたA4「ドント・バザー・ミー」も面白い。本人は気に入ってないらしいが、この頃のレノン=マッカートニーの天衣無縫な魅力の陽気な楽曲とは趣を異にする、影のある曲調がいい。どこか日本の歌謡曲風でもある。
A5「リトル・チャイルド」やB2「ホールド・ミー・タイト」は急拵えで作ったそうだが、いかにもビートルズ味が濃厚だ。ジョンが書いた曲ではB6「ナット・ア・セカンド・タイム」がいい。
モータウンのカバーの2曲、A7「プリーズ・ミスター・ポストマン」とB3「ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー」は、本作のカバー曲の中でも特に印象の強いトラックだ。
ビートルズのアレンジと演奏の良さもあるとは思うが、ビートルズのオリジナル曲に囲まれても引けを取らないどころか、圧倒するような輝きを放っているのは、この当時のモータウンの楽曲がいかに優れ、時代の先頭を走っていたかを証明するものだと思う。
本作のレコーディングは、メディア出演やライヴ公演の合間を縫って、超過密スケジュールの中、3ヶ月のあいだに飛び飛びで6日間をかけて行われた。ライヴで演奏していたカバー曲や、余白を埋めるための急拵えの曲でなんとかやっつけたとジョンとポールは語っているが、やっつけでこれだけの完成度を誇るのだから呆れたものだ。
やっぱりビートルズは、なんとなくいけ好かない。
↓ ポールの最高傑作ではないかと思う「オール・マイ・ラヴィング」。
↓ マーヴェレッツの見事なカバー「プリーズ・ミスター・ポストマン」。
(Goro)