「ハックニー・ダイアモンズ」(2023)
The Rolling Stones
いったいどうなっているのか、と呆れ返るほどの充実作である。
80歳のストーンズの18年ぶりのオリジナル・アルバム『ハックニー・ダイアモンズ』が昨日リリースされた。
最近は70歳を過ぎたような往年のベテラン・アーティストが新譜を出したりライヴをするのもめずらしくないのであまり驚かなくなってきたけれども、しかしそういった老境のパフォーマンスというのは概ね、枯れたような、干からびたようなもので、キレの悪い小便みたいな演奏に、滑舌も悪くなったガサガサした歌声で、老醜を晒しているものである。
しかしこのアルバムからはそんな老醜だの尿もれだのはまったく感じられない。
もう彼らに対して、年齢がどうのなんて意味がないのだろう。彼らはきっと、永遠に魂がメラメラと燃え続ける不老不死の怪物なのだ。
それぐらい、瑞々しい音とキレの良い疾走感、豊かな音楽に満ちたアルバムだ。80年代以降では最良の部類に入る傑作だと思う。ジャケはダサいけど。
パワフルに攻めたてる現役感に驚かされた先行シングル「Angry」から始まり、ミックの伸びのある歌声に感嘆させられる、名曲の香り漂う「Depending On You」、怒涛の疾走感がカッコ良すぎる「Bite My Head Off」などに始まり、他にも聴きどころが多すぎるくらいのアルバムだ。
チャーリー・ワッツが参加した「Mess It Up」「Live by the Sword」がまた嬉しい。チャーリー以外の何者でもないドラムの音に思わず涙に咽びそうになる。「Live by the Sword」には30年ぶりにビル・ワイマンも参加して、久しぶりに5人が揃ったことになる。
また今回も「Tell Me Straight」でキースが意外にハリのある、力強い歌声を聴かせてくれるし、レディー・ガガがコーラスで良い仕事をしている壮大なゴスペル風の「Sweet Sounds of Heaven」も聴きものひとつだ。
しかしそれらを存分に楽しんだ後、最後のトラックでストーンズ・ファンは感極まることになる。マディ・ウォーターズの名曲のカバー「Rolling Stone Blues」だ。
バンド名の由来となった曲であり、まさにストーンズの原点と言える曲だ。これを最後のトラックとして収録したのは、ファンへの贈り物のつもりなのだろう。ミックとキースが二人だけで演奏しているようだ。歌とギターとハーモニカだけの素朴でラフな演奏だが、これこれ、こういうのが聴きたかったんだよ!と嬉しくなる、たまらない演奏だ。
きっとこれが最後のオリジナルアルバムなんだな、と納得させられるトラックだ。
ああ、もうこれで思い残すことはないわ、などと清々しい気持ちにすらなった。
と、ここまで書いた後で、たまたまYouTubeで、NEWS23によるミック・ジャガーの独占インタビューを見つけた。
その中でインタビュアーが「新作の最後の曲”ローリング・ストーン・ブルース”は、本当に最後のアルバムだとしたら、ハマりすぎでした」となかなか気の利いたことを言うと、ミックは次のように答えた。
「あの曲は俺たちの最後の曲にはならないよ。ロック系の曲、バラードなどを経て、最終的にブルースに帰り着いたという宣言であって、あれがストーンズの最後の曲ということじゃない。ザ・ローリング・ストーンズのアルバムはこれからもリリースしていくと思ってるよ」。
マジか。
そうだった、うっかり忘れそうになっていたが、彼らは永遠に燃え続ける魂を持った不老不死の怪物だったのだ。
(Goro)