⭐️⭐️⭐️
“The Boat That Rocked”
監督:リチャード・カーティス
主演:トム・スターリッジ、フィリップ・シーモア・ホフマン
1966年のイギリスでは、ラジオ局が国営放送BBCの1局のみで、そのBBCが流す音楽のほとんどはクラシックとジャズであり、ポップスは1日45分しか流されなかったという。
そこで、イギリスの法律が及ばない「公海上の船」から、広告収入で24時間、ポップスやロックを流す「海賊ラジオ船」が出現した。海賊ラジオは人気を博し、イギリスの当時の人口の約半分の2,500万人が聴いていたという実話を元にして作られた作品だ。
60年代のロックやポップスがふんだんに盛り込まれながら、音楽を愛する個性的なDJたちの船上での日常や色恋沙汰、彼らをあの手この手で排除しようとする政府との戦いなど様々な逸話が描かれる。
コメディと言うほど笑えるわけではないけれど(イギリス映画というのはどうして笑えないんだろう?)、60年代のロック好きなら、DJたちに感情移入して楽しめるところはあるかもしれない。名優フィリップ・シーモア・ホフマンはじめ、役者も良い。
当時の若者にとってはきっと海賊ラジオ局は唯一の希望だったんだろうなあと思う。親に隠れてベッドやトイレでラジオを聴く少年少女たちの気持ちはよーくわかる。わたしもそんな中学生だった。
政府が必死で排除しようとするぐらい「ロックを聴くのはいけないこと」とされていた時代が、逆になんだかロックにとっていちばん幸福だった時代のようにも思えてくる。
ストーンズの「サティスファクション」やザ・フーの「マイ・ジェネレーション」、キンクスの「サニー・アフタヌーン」が生まれた時代のイギリスがそんな状況だったとはこの映画で初めて知った。
当時の若者たちは、われわれの想像よりずっと不自由な環境で、フラストレーションを抱えていたのだろうな。
だからあんなにたくさんの名曲が生まれたのかもしれない。
今はすっかり自由だけど、名曲はあんまり生まれてこない。
そりゃまあ、ロックよりも自由のほうが大事だろうから、仕方がないことなのかもしれないけれども。
(Goro)