不確かなメロディー
監督:杉山太郎
出演:忌野清志郎、ラフィータフィー
2000年、忌野清志郎率いるロックバンド、ラフィータフィーの、青森から鹿児島まで、1カ月かけて15のライブハウスで演奏するツアーを追ったドキュメンタリー作品。
ライブ・シーンはもちろん、オフショットも挟みながら、清志郎が音楽に出会った頃の話から、RCサクセションでの苦労と成功、解散から現在に至るまでを、本人とメンバーたちのインタビューで振り返る。
わたしはこの作品を観るのは2度目だ。
なんだか不思議な偶然なのだけど、わたしがこのDVDをネットレンタルで注文した後で、毎週見ているAbemaTVの『しくじり先生』に、今回は武田真治が講師として出ていた。
武田は、なにをやっても目立ち、成功し、「世界がオレを待っている」と思い込んでいた十代のイケイケの頃の話から、やがて自信を喪失し鬱状態になり、芸能界引退を望んだものの事務所に借金を作ってしまったことで辞めることが出来ず、20代後半には北海道の実家に引きこもっていたと、苦難の芸能人生を語った。
その、武田のどん底の時代に、竹中直人に紹介されて一緒に飲んだのが清志郎だったと言う。
その後、クリスマス・イヴの深夜に電話で呼び出されてデモ・テープ作りを手伝ったのをきっかけに、サックス奏者としてラフィータフィーに参加することになったと、清志郎に救われた思い出を、涙ながらに、言葉に詰まりながら語った。
それを見た翌日にこのDVDが届いた。
この映画の中でインタビューに答える当時28歳の武田真治は、清志郎を「ボス」と呼び、バラエティやドラマで見せる顔とはまったく違った、真剣そのものの表情で質問に答えていたのが印象的だった。まるでヤクザの組に入ったばかりの、親分に命を捧げる覚悟を決めた少年のよう顔つきだった。
ラフィータフィーのメンバーは、キーボードのジョニー・フィンガーズが元ブームタウン・ラッツ、ベースの藤井裕は元上田正樹とサウストゥサウス、ドラムの上原ユカリ裕はシュガー・ベイブや沢田研二のエキゾチックスを渡り歩いてきたという、それぞれミュージシャンとして紆余曲折の人生を歩んできた強者揃いだ。
清志郎が言うには、彼らはすべて、「合わせようとしなくても、最初から同じグルーヴを持っているメンバー」と語る。
そんな彼らが、ビートルズのアレをモジって《マジカデ・ミル・スター・ツアー》と題して100~200人ぐらいしか入れないような全国のライブハウスを巡る。
その間のマイクロバスでの移動も実に楽しそうだ。
車中で酒盛りをし、SAで土地の名物を食べ、カウンターだけのお好み焼き屋で打ち上げをし、みんなでコンビニで買い物をし、清志郎の部屋に集まってその日のライブのビデオを見ながら深夜まで呑む。こういうのを見ると、バンドマン生活って良いなあと子供のように憧れてしまう。それはそれで大変なのだろうけど。
誰よりも楽しそうなのは、清志郎だ。
映画の終わり、ツアーを終えて東京に戻り、メンバーと別れて1人になると、彼のこの言葉で映画は締め括られる。
「明日から、また次の旅を夢見て、暮らします」
ライブのMCでも「おれには夢があるんだ。世界中から戦争が無くなること。おれには夢があるんだ。日本全国に愛人をつくること」と笑わせていたけれど、彼は自分の職業をいつも「バンドマン」と名乗っていたように、彼の夢はきっと、バンドマンとして仲間と日本中を飛び回り、演奏旅行をして生活することだったのだろうと想像する。
きっと幸福な人生だったに違いない。
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