ザ・ウェイラーズ/アイ・ショット・ザ・シェリフ (1973)【’70s Rock Masterpiece】

【70年代ロックの名曲】
The Wailers
I Shot the Sheriff (1973)

ザ・ウェイラーズは最初、ボブ・マーリー、ピーター・トッシュ、バニー・ウェイラーの3人によるコーラス・グループとして1962年にジャマイカでデビューした。

この曲は1973年10月にリリースされたメジャー第2作、通算6枚目のアルバム『バーニン』の収録曲だが、このアルバムを最後にトッシュとウェイラーが抜けて、ボブ・マーリーとリズム隊と女性コーラスという編成に変わり、グループ名もボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズに変更された。

この曲を翌年にエリック・クラプトンがカバーしてシングルリリースすると全米1位の大ヒットとなった。

それをきっかけにカリブ海の小国、ジャマイカの独創的な音楽〈レゲエ〉とボブ・マーリーの名前が衝撃と共に世界的に広まることになる。

わたしもそのクラプトン・バージョンが、ボブ・マーリーの音楽との初めての出会いだった。

「I Shot the Sheriff」という衝撃的なタイトル、不穏な雰囲気と一度聴いたら忘れられないキャッチーなメロディにやられた。

クラプトン版は洗練された聴きやすいロック・サウンドで、それも充分にカッコ良かったけれども、その後で聴いたウェイラーズのオリジナル版の、ゴリゴリの暴力的なリズム隊を中心にした野蛮なサウンドにはさらに驚かされた。

当時わたしはまだ16か17のクソガキで、まだロックなんてほとんど聴いたこともなかったけれども、ボブ・マーリーの音楽にはそんな極東の国のクソガキにでもそれなりに刺さる、普遍的な魅力があったということなのだと思う。だから世界中のクソガキが熱狂したのだ。

この恐るべきタイトルについて、作者のボブ・マーリーは次のように語っている。

「本当は”I Shot the Police”と歌いたかったが、お偉方が騒ぎ立てるだろうから”Sheriff”に変えたんだ。…でも意味は同じだ。正義について歌っている」

それでもタイトルのインパクトは充分に強烈だったし、保安官を撃ったことを歌にする国っていったいどんな国なんだ、とクソガキのわたしは思ったものだった。

独特のリズムとグルーヴは強烈に野生の匂いがするものの、メロディは欧米のR&B風でもあり、鮮烈で刺激的なサウンドと親しみやすい歌が両立していたのが他の国でも受け入れられた理由だろう。

70年代の英米のロックは成熟していく過程で商業的になっていったり、アートのように高尚で複雑化していった時代だった。かつてのように、フラストレーションの溜まった若者たちがシンプルに共感できる音楽ではなくなりつつあったが、それがこのレゲエにはまだ生々しいかたちで残されていたのだ。

英国にはジャマイカ人も多く住んでいたことから、特に労働者階級の白人へのレゲエの浸透も早く、パンクロックとこのレゲエが、すでに暴発寸前だった若者たちを一気に燃え上がらせることになる。

↓ 1974年発表のエリック・クラプトン『461オーシャン・ブールヴァード』に収録されたカバー。シングル・カットされて大ヒットし、クラプトンにとって唯一の全米1位となった。

(Goro)