⭐️⭐️⭐️⭐️
XTC
“Black Sea” (1980)
若い頃はこのバンドが苦手だった。
なんとなくだけれども、わたしのような歌謡曲で育った昭和の日本人には合わないのかなーと、肌感覚で思ったものだ。
喜怒哀楽の「哀」がすっぽり抜けているような、「情念」みたいなものがまったく感じられない、ひねるだけひねって、カラッカラに乾いたポップ。日本の、湿っぽさと艶っぽさがウリの歌謡曲とは真逆の音楽だ。
それでも何十年とロックを聴いていると、当たり前のものに飽きて、一風変わったものに惹かれるようになるものだ。
XTCのスタイルは一風変わっていても、ちゃんとロックの力強さやポップな親しみやすさは持ち合わせている。そして聴き出すとどんどんハマっていく。若い頃はよくわからなかったけれども、今聴くとこれが面白い。
XTCはヴォーカル&ギター&ソングライター担当のアンディ・パートリッジを中心に結成され、1977年にデビューしたイギリスのバンドだ。
本作は1980年9月にリリースされた4枚目のアルバムで、全英16位、全米41位と、彼らにとってのブレイク作となった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 レスペクタブル・ストリート
2 ジェネラルズ・アンド・メジャーズ
3 リヴィング・スルー・アナザー・キューバ
4 ラヴ・アット・ファースト・サイト
5 ロケット・フロム・ア・ボトル
6 ノー・ランゲージ・イン・アワ・ラングス
SIDE B
1 タワーズ・オブ・ロンドン
2 ペイパー・アンド・アイアン
3 バーニング・ウィズ・オプティミズムス・フレイムス
4 サージェント・ロック
5 トラヴェルズ・イン・ニヒロン
プロデュースはスティーヴ・リリーホワイトで、彼が『ピーター・ガブリエル3』で発明したゲートリバーブ・ドラムをここでも使用し、楽曲を引き締め力強さを与える、大きな効果を挙げている。また、同じくリリーホワイトが手掛けたU2の1stアルバム『ボーイ』と同様に空間を感じさせる音作りもリアリティと迫力を感じさせる。
社会風刺、戦争、個人の葛藤など重いテーマを歌いながらも、ユーモアや遊び心のある実験的な音作りをするなど、絶妙なバランス感覚で唯一無二のスタイルを完成させている。
明るい曲が多く、コミカルな味付けもあるため、あくまでポップ志向のバンドかと思いきやラストの「トラヴェルズ・イン・ニヒロン」でグッとシリアスに攻撃的な面を全面に出してくるあたりは嬉しい。ああ、やっぱりパンク世代だなとあらためて思う。
意外なのはアメリカでもアルバムチャートの41位と大健闘しているところだが、これはこの頃からじわじわと影響力を持ち始めた、全米の各大学にある学生ラジオ局を中心に支持が広まったのだった。
↓ シングル・カットされ全英32位となった「ジェネラルズ・アンド・メジャーズ」。ベーシストのコリン・モールディングが書いた曲で、ヴォーカルも彼だ。
↓ 全英31位まで上昇した「タワーズ・オブ・ロンドン」。アンディ・パートリッジが書いた曲で、ヴォーカルも彼だ。
(Goro)