Wipers
“Is This Real?” (1980)
最初は、何かの間違いではないかと思ったものだ。
以前、このブログの記事用に、ニルヴァーナがカバーした曲の原曲を調べていたときにこのアルバムを初めて聴いたのだった。
いかにもザ・グランジといった感じでわたしも気に入ったのだけれども、リリースが1980年となっていたことに目を疑ったのだった。
1990年の間違いではないのかな、と本気で思い、調べてみたけれども、どうやら間違いではないとわかって、驚いたものだ。それこそ”Is This Real?”と言いたいぐらいだった。だって、どう聴いても90年代のオルタナティヴ・ロックとしか思えないのだ。
1980年なんて、ポスト・パンクやニュー・ウェイヴがまだ手探りしながら新しい音やスタイルを試行錯誤していた時代だ。そんな時代に、まったく手探り感のない、確信に満ちたようにギターをギャンギャンと鳴らし、無駄のないワンフック構成の曲を歌っているのが驚きだった。
ワイパーズは、米オレゴン州ポートランド出身のバンドだ。ヴォーカル&ギター&ソングライティング&プロデュースを務めるグレッグ・セイジを中心とした3ピース・バンドで、当時の西海岸のロックシーンでも異彩を放つバンドだったという。
本作は1980年1月にインディ・レーベルからリリースされたが、プロモーションはほとんどされず、バンドの地元でカルト的な人気を得た以外は、ほとんど注目されなかったという。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 Return of the Rat
2 Mystery
3 Up Front
4 Let’s Go Let’s Go Away
5 Is This Real?
6 Tragedy
7 Alien Boy
SIDE B
1 D-7
2 Potential Suicide
3 Don’t Know What I Am
4 Window Shop for Love
5 Wait a Minute
陰鬱なトーンやサイケにうねるギター、反復の多い曲など、まさに10年後のグランジ・ロックの原型ともいえるスタイルだ。カート・コバーンが「人生で最も影響を受けたレコードのひとつ」と公言しているのも、わかりすぎるぐらいによくわかる。
当時は西海岸で流行していたパンク・ロックの一味と思われていたが、中心人物のグレッグ・セイジは、パンクにカテゴライズされるのを嫌っていたという。
彼は「15年間に15枚のアルバムを出す」という計画を立て、「俺たちがやろうとしてたのは“長期的な芸術活動”だった。レコードを出してツアーして消えていくようなバンドとは違う」と語っている(ワイパーズBOXセットのライナーノーツより)。
グレッグ・セイジは、「レコードだけでバンドのすべてを伝える」という哲学があり、ライヴ活動を重視していなかったという。当時としてはかなり異質な考えだったが、セイジは「ライヴは一過性だが、レコードは永久だ」と語るほど、レコードを「芸術作品」とみなしていた。
まあプログレかなんかの人が言うならわかるけれども、こんなライヴ向きの音楽をやってる人がそう言うのはなんとなく奇異にも思える。
しかし、彼のその哲学にはわたしも共感するところがある。わたしもライヴを観るということに対しては昔からあまり熱心ではない。
好きなアーティストでも1度見れば充分と思っているところがあるし、基本的にアーティストの評価は録音物でしかしていない。わたしは若い頃から、なけなしの1万円をライヴを観に行くことに使うより、CDを5枚買う方を常に選んでいたものだ。
グレッグ・セイジはこうも語っている。「俺たちの音楽は、ステージの上で見世物になるものじゃない。聴く人の中で生きるべきなんだ」(ストレンジャー紙インタビュー 2004年)。
こういうバンド、好きだな。
↓ アルバムのオープニングを飾る「Return of the Rat」
↓ ニルヴァーナがカバーしたことでも知られる「D-7」。
(Goro)