ウィリー・ネルソン『赤毛のよそもの』(1975)【最強ロック名盤500】#217

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#217
Willie Nelson
“Red Headed Stranger” (1975)

大人の音楽だな。

そしてこれもまた、夜に聴きたいアルバムだ。
ただし真夜中にではなく、晩酌をしながら、サバの塩焼きなんかをつつきながら聴きたいものだ。

ウィリー・ネルソンは1950年代から、最初は主に作曲家として音楽活動を始め、60年代に入ると自身のアルバムを発表するようになる。

最新のフォークやロック、ジャズやR&Bのミュージシャンとも交流しながら、当時のヒッピー・ムーヴメントにも影響を受けるなど、カントリー・ミュージックの保守本道から大きく外れたその活動や音楽性から、彼は「アウトロー・カントリー」と称されるようになる。

本作はそんなウィリー・ネルソンの18枚目のアルバムだ。

この年彼は、アトランティック・レコードからコロムビア・レコードへと移籍し、その契約条件には「完全な創作権を与える」という条文も含まれていた。つまりウィリー・ネルソンはこの移籍で「好きなようにレコードを作って構わない」という自由を得たのだった。

その彼が自由に作った最初のアルバムである本作は、妻とその浮気相手の男を殺して逃亡する西部の男の物語をテーマにしたコンセプト・アルバムである。既存の曲のカバーとネルソンのオリジナル曲が半々ぐらいで構成されている。

本作にはカントリー・ミュージックにはつきものの、スティール・ギターやフィドルといった楽器は使用されておらず、ネルソンの愛機として有名なマーチンのナイロン弦ギター、ピアノ、ハーモニカ、柔らかなベースに控えめなドラムといった極めてシンプルなアコースティック・サウンドとなっている。その必要最低限の音しかない空間に、ウィリー・ネルソンの、どこか癒される歌声が浮遊する。

当時の、ストリングスなどで派手に飾るのが主流だったカントリー・ミュージックとは明らかに異質なサウンドであり、これもまた「アウトロー・カントリー」と呼ばれた所以である。

完成したテープをコロムビアの重役たちに聴かせると、彼らは「なぜデモテープなんかを持ってきたんだ?」と尋ねた。

ネルソンは「これはデモじゃない、完成品だ」と言うと、重役たちは「音が少なすぎる。こんなのじゃダメだ。やり直してくれ」と命じた。そしてコロムビアの社長は、ナッシュヴィルの有名プロデューサーの元へテープを送り、楽器をあれこれ重ねてアレンジをするよう注文した。テープを受け取ったプロデューサーまでが、「最低だ。これは自宅のリビングで作ったのか?」と宣ったという。

しかしウィリー・ネルソンは契約条件の「完全な創作権」を盾に、一切アレンジをさせず、当初のままで押し通し、アルバムは1975年5月にリリースされた。

その結果、ネルソンにとって初となる、米カントリー・チャートの1位を獲得し、200万枚以上を売り上げる大ヒットとなったのだ。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 牧師の出番
2 まさかとおれは思ったのに
3 牧師の出番のテーマ
4 モンタナ州ブルー・ロック〜赤毛のよそもの
5 雨の別離
6 赤毛のよそもの
7 牧師の出番のテーマ
8 ジャスト・アイ・アム

SIDE B

1 デンヴァー
2 オーヴァー・ザ・ウェイヴス
3 ダウン・ヨンダー
4 きみの腕の中で
5 思い出してくれ
6 ハンズ・オン・ザ・ホイール
7 バンデラ

A5「雨の別離」は、これもキャリア初となる米カントリー・シングル・チャートの1位を獲得し、全米チャートでも21位のヒットとなった。その後もウィリー・ネルソンの代表曲として定着している。

既存のカントリー・ミュージックとは一線を画す本作の音楽性は、ウィリー・ネルソンのオリジナリティを確立することになった。

コロムビアのお偉方やナッシュヴィルのプロデューサーには、この極めてシンプルな音楽の美しさ、侘び寂び、心を癒す素晴らしさがわからなかったのはなぜだろうと不思議に思うほどだ。リスナーにはちゃんと伝わって大ヒットしているのに。

きっと音楽を商売上の「商品」としか見られなくなってくると、そうなってしまうんだろうなあ。

↓ 米カントリー・チャート1位の大ヒットとなった代表曲「雨の別離」。沁みる。

↓ こちらも米カントリー・チャートで2位のヒットとなった「思い出してくれ」。

(Goro)

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