Weezer
“Weezer” (1994)
これは今の若い子に言ってもきっとピンとこないだろうけど、衝撃的なジャケットだったのである。当時のロック好きたちが、ひと目見て大笑いしたジャケットなのだ。
なにしろ、ロックミュージシャンらしき人物はひとりもいない。なんとなくオタクっぽい、全員いじめられっ子みたいな地味男子4人である。
当時はルッキズム全盛時代なので、見た目だけなら絶対に売れるはずもないように思えた。しかしあえてそれをジャケットで堂々と晒すという、大胆さというか、開き直り具合にわれわれは呆気に取られ、感動しながら、大笑いしたのである。
このアルバムが売れたのは、このジャケットが注目を集めたことも大きな要因だったと思う。かくいうわたしも「こりゃ面白そうだ」と思って買ったし。
本作は1994年5月にリリースされた、ウィーザーの1stアルバムである。
米L.A.で結成され、1994年にデビューした4人組は、童貞でいじめられっ子たちのひと夏のほろ苦い青春を描いたコメディ映画の登場人物みたいで、ちっともロックバンドらしくないのが逆にウリになった。
その昔、ロックバンドというのは、ちゃんとロックスターらしい、カッコいい華やかな見た目をしていたものだった。
わたしはこの、ロックバンドなのにまったくカッコ良くない彼らの快進撃が痛快でならなかった。
ヴォーカルのリヴァース・クオモがウィーザーの作詞・作曲を担当している。上のジャケの左から2番目のやつだ。たぶん。
クオモは米コネチカット州で育ち、高校卒業後にプログレッシヴ・メタル・バンドを組み、地元で活動していたが、ガンズ&ローゼスに憧れ、L.A.に移住したのだった。
それがなぜかウィーザーを結成すると、ノイジーでエッジの立ったサウンドでヘタレ男子の心情を切なく歌うギャップが萌える、パワー・ポップへと転向したのだった。
そして2ndシングルの「バディ・ホリー」が全米オルタナチャート2位、全英11位の大ヒットとなり、彼らをブレイクさせた。
わたしは初めてこの曲を聴いたとき、激しく動揺した。このいじめられっ子みたいな連中がこの素晴らしい名曲を書いたのかと、その一発逆転の下剋上劇にわたしは感動を覚えたのだ。
歌詞も、バディ・ホリーみたいな容姿の「僕」が、いじめられっ子から君を守ってあげると力強く約束する歌だ。
泣けるぐらい、カッコいいじゃないか。
90年代の数ある名曲の中でも、この曲は十指に入る超名曲だとわたしは思っている。
アルバムは全米16位、300万枚を売る大ヒットとなり、世界中のヘタレ男子に夢と希望を与えた。
本作はカート・コバーンが死んだ1ヶ月後にリリースされている。
オルタナティヴ・ロック・ムーヴメントのお祭り騒ぎにいきなり幕が下ろされたような米国ロックシーンの沈鬱なムードも、このアルバムと「バディ・ホリー」が放った希望の光によって大いに救われたのである。
↓ 米オルタナチャート7位を記録したシングル「セイ・イット・エイント・ソー」。矢野顕子もカバーしている。
(Goro)