1970年代の半ば、ニューヨークを発火点とするパンク・ロックは、ラモーンズのイギリス・ツアーによってロンドンに飛び火すると、一気に燃え広がった。
アートの要素が強かったニューヨーク・パンクに対してロンドン・パンクは、職も希望もない社会の底辺のチンピラたちが喧嘩腰で社会に噛みつき、有り余るエネルギーとフラストレーションを注ぎ込んだ、爆裂ロックンロールだった。
そして、すでに複雑化し、高尚化し、大金持ちとなってでっぷりと太ってしまった既存の”ロック”に対し、パンクは唾を吐きかけ、ケツを蹴り上げ、通りから追い出してしまった。それは、ロックの歴史始まって以来の、ロックがロックを否定したクーデターであり、ロックの精神の原点回帰であった。
パンク・ムーヴメントはおよそ2年ほどで終息したが、この”パンク”というロック史における革命分子の遺伝子はその後もインディ・シーンやオルタナティヴ・ロックに引き継がれ、ロックの炎が燃え続ける原動力となった。
その革命分子の最初の遺伝子、1976年から79年にかけてのパンク・ムーヴメントを彩った、セックス・ピストルから始まるU.K.オリジナル・パンク25組の代表曲をここに選んでみた。
Sex Pistols – Anarchy In the U.K.
ロック・シーンを激震させ、ファッションやカルチャーに多大な影響を及ぼし、英国を震え上がらせたクソガキたちの、まさに世界を変えたデビュー・シングル。歌詞の政治的な意味などはどうでもよく、この歌を聴いて魂が解放されるような自由を感じ、いても立ってもいられないほど心が熱くなり、世界観や人生観が激変した若者が世界中にどれだけいたことだろう。もちろん、わたしもそのひとりだ。
Damned – New Rose
ダムドはピストルズよりも早く、UKパンクで初めてレコードをリリースしたことでも知られている。それがこのシングルで、彼らの代表曲。いつどこで聴いてもテンション爆上がり必至の永遠のパンク・アンセムだ。
The Clash – White Riot
彼らが残した5枚のアルバムはそのすべてがロック史に残る名盤・傑作だった、パンクの枠を超えた伝説のバンド、ザ・クラッシュのデビュー・シングル。ここからスタートした後は絶えず自らの音楽性を進化させることに挑戦したその姿勢は、一貫してどんなパンクバンドよりもパンクだった。
The Jam – In the City
クラッシュとほぼ同じ活動期間で6枚のアルバムを残したジャムも、やはり同様に驚くべき音楽的進化を遂げながら、その絶頂期に惜しまれながら解散した。彼らの残した山ほどの名曲は今も輝きを失っていない。
この曲は彼らデビュー・シングルで、ザ・フーの「マイ・ジェネレーション」と並んでロック史に燦然と輝き続ける、若者賛歌の名曲だ。
The Stranglers – No More Heroes
ドアーズのようなキーボードが特長の彼らは上記の4バンドと共に”5大ロンドン・パンク”に数えられた。80年代以降もその人気は続き、シングルもアルバムもそのほとんどがチャートに入るほど売れ続け、今も現役で活動している息の長いバンドだ。この曲は「ヒーローなんてもういらない!」と歌った彼らの代表曲。
https://www.youtube.com/watch?v=-gfIgA-PYyQ
Buzzcocks – Boredom
パンクのD.I.Y.精神を最も体現していたのがこのバズコックスと言えるかもしれない。彼らの地元であるマンチェスターにセックス・ピストルズを呼んでライヴを主催し、自らもバンドを結成し、自分たちでレーベルを立ち上げ、自分たちでレコードを製作し、自分たちで販売した。この曲は彼らのデビューEPに収録された初期の代表曲。
X-Ray Spex – Oh Bondage Up Yours
ロンドン・パンク初(たぶん)の女性ヴォーカル・バンドのデビュー・シングル。
当時のパンク・ムーヴメントのドキュメンタリー映画を観ていると必ずと言っていいほど出てくるバンドだった。ヴォーカルのポーリーの病気の問題もあって、アルバム1枚だけを残して解散した。
Wire- 12XU
結成当時の彼らは楽器に触ったこともない初心者だったが、その粗削りな演奏と闇雲な疾走感が逆に魅力的な個性となっていて、曲作りも含めて、もしかして天才なのかと感心してしまう。この曲は、21曲で35分という1stアルバムのラストを飾る、信じられないぐらいカッコいい曲。
Sham 69 – I Don’t Wanna
労働者階級の心情を歌ってカリスマ的な人気があった、激情ヴォーカルと荒々しいギターが特長の熱血パンク・バンド。oiパンクの源流ともされている。この曲は彼らのデビュー・シングルで、プロデューサーは元ヴェルヴェッツのジョン・ケイル。
The Vibrators – Baby Baby
彼らの代表曲で、キャッチーなメロディとノイジーで奔放なギターが魅力の名パンク・バラード。フロントマンのノックスは当時すでに30歳を超えていて、パブ・ロックの時代から活動していた実力のあるバンドだった。
Chelsea – Right To Work
彼もまたデビュー時に30歳を超えていたジーン・オクトーバーの、武骨で熱いヴォーカルとタイトな演奏がカッコいいチェルシーの、パンクスたちに愛された代表曲。
Eater – Lock It Up
平均年齢15.5歳というクソガキバンド。まあ現代ならこういう年齢でもめちゃくちゃ巧いバンドがYouTubeで腕を競い合っていてめずらしくもないけれども、イーターはちゃんと年相応に下手クソだ。でも年相応に自由で奔放でバカでやりたい放題なのでカッコいいのだ。
Tom Robinson Band – 2-4-6-8 Motorway
彼らのデビュー曲で、全英5位のヒットとなった名曲。パンク・ロックらしい荒っぽい音ではないけれども、同性愛者であることを堂々とカミングアウトしていたトム・ロビンソンは、同性愛の権利と解放、そして人種や性別や職業の差別に対しても本気で闘争を叫んだ、真のパンクスだった。
Siouxsie And The Banshees – Hong Kong Garden
セックス・ピストルズの親衛隊だったスージー・スーが結成したバンドで、このデビュー・シングルが全英7位のヒットとなった。そのメイクやサウンドは、後に流行するゴシック・ロックの先駆者と言えるだろう。
Generation X – Ready Steady Go
ビリー・アイドルを中心としたジェネレーションXについては、ミッシェルガン・エレファントのチバユウスケの以下のコメントがすべてを語っている気がする。「おれ、一番素晴らしいパンクアルバムって実はジェネレーションXの1stだと思ってるから。聴いたときにバッと燃えて、後から聴くと、なあんだこのダサさは(笑)そこがもう、大好きなんですよ」。
Gang of Four – Damaged Goods
ドクター・フィールグッドのギタリスト、ウィルコ・ジョンソンに影響を受けたパンクのギタリストは実は結構多くて、中でも最も忠実にそのスタイルを受け継いだのが、このバンドのアンディ・ギルだ。キレの良い硬質なギターが超クールだ。
Rich Kids – Young Girls
セックス・ピストルズを脱退したグレン・マトロックを中心に結成されたバンド。ピストルズ時代に「アナーキー・イン・ザ・U.K.」などを作曲したマトロックのキャッチーなソングライティングはここでも発揮されている。
The Crass – Do They Owe Us a Living?
クラスは芸術集団であり、反資本主義の政治集団であり、反キリスト教であり、環境保護やフェミニズムなどを訴える活動家であり、アナーキズム・パンク・バンドを自称している。
わたしの最も苦手とするタイプだが、彼らのドキュメンタリー映画『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』(2014蘭)は素の彼ら(結構ふつうの人たちだった)が見られて意外と面白かったな。
『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』の過去記事はこちら
The Adverts – One Chord Wonders
バンド名はこのバンドの女性ベーシスト、ゲイ・アドヴァーツの姓から付けられている。ベースが女子のバンドはだたいたい好きという変な癖があるわたしだが、このバンドもまた案の定、カッコいい。この曲は彼らのデビュー・シングルで、名曲だ。
U.K. Subs – C.I.D.
U.K.サブズはハードコア・パンクの先鞭を付けたようなバンドだ。これは彼らの1stシングルで、彼らの代表曲。現在まで多くのメンバーが入れ替わりながらも一度も解散せずに活動を続けており、今ではパンク界の重鎮となっている。
999 – Emergency
999は銀河鉄道のことではなくて、イギリスの緊急ダイヤルの番号なんだそうだ。この曲も一風変わった曲調だが、本質はキャッチーなポップ・パンクだ。
The Undertones – Teenage Kicks
いかにも田舎の兄ちゃんたちといった風貌の彼らは、U.K.ではなくて、アイルランド出身のパンク・バンド。この「ティーンエイジ・キックス」は彼らのデビュー・シングルで、彼らの代表曲だ。このキャッチーな名曲が英国国営放送の有名なDJジョン・ピールの気に入り、番組で何度もオンエアしたためにイギリスでブレイクしたそうだ。
Stiff little fingers – suspect device
こちらは”アイルランドのクラッシュ”とも言われた熱い熱いバンド。ギッザギザの音のギターで始まる暴力的なイントロを聴いただけでもうテンション爆上がりだ。
唾が飛んできそうな絶叫ヴォーカル、なのに曲は意外とキャッチーという、見事なまでにパンクに期待するものが全部揃ったような完璧なパンク・ロック・バンドだ。
Angelic Upstarts – I’m an Upstart
初期のクラッシュに影響を受けたバンドらしく、まるでジョー・ストラマーがいるようにすら聴こえる。この曲は全英31位となった2ndシングル。クラッシュよりもアグレッシヴで圧が強い。演奏もタイトでなかなかカッコいい。
The Pop Group – She is Beyond Good and Evil
このバンドはもう、いわゆるポスト・パンクに突入している。この曲は彼らの1stシングル。名前に反してポップな要素はほぼゼロで、ダブの要素も入り、かなり実験的なサウンドになっている。こうしてもはやパンクも解体される、新たな時代へ突入した。
選んだ25曲がぶっ続けで聴けるプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪プレイリスト⇒ U.K.パンク 1976-79【必聴25組25曲】U.K.PUNK 1976-79 Greatest 25 Songsはこちら
また、apple musicのプレイリストとしても作成済みです。
apple musicをご利用の方はこちらのリンクからプレイリストにジャンプできます。
U.K.パンク 1976-79【必聴25組25曲】U.K.PUNK 1976-79 Greatest 25 Songs (goromusic.com)
ぜひお楽しみください。
(by goro)