⭐️⭐️⭐️⭐️
Tom Petty
“Wildflowers” (1994)
いつの間にか始まったような、ごく控えめなアコギのブンチャカチャカチャカなイントロでヌル〜ッと入ってきて、これまた控えめな声で歌いだす極めてシンプルなメロディが、自然に耳に馴染んでいく。そんなふうに始まるアルバムだ。
ドガジャーーン!と始まっていきなりテンション爆上がりのアルバムも良いけれども、むしろ本作のようなアルバムのほうが繰り返し永く聴き続けたりする。
まあ100人聴いたら99人は「ディランじゃねーか!」とツッコむだろうけれども、そりゃトム・ペティはボブ・ディランの弟子みたいなものなので、師匠の芸を弟子が継いでいくのは当然といえば当然だ。
残りの1人は、ディランの背後に聴こえるさらにディープなカントリー・ミュージックの影響も語れたりするだろうけれども、わたしにはその知識がないので99人の皆さんと同じようなものだ。
本作はトム・ペティがワーナーに移籍しての第一弾として、プロデューサーのリック・ルービンと組んで制作された、彼にとって通算2枚目のソロ・アルバムだ。仏頂面が得意な師匠のディランに比べると、ずっと素直な、親しみのこもった笑顔で「やあ」と挨拶してくるような音楽ではある。
普段はトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズというバンドとして活動している彼らだったが、その看板をあえて外して制作した理由は、トム自身によれば「5人のバンドという枠組みに縛られず、より自由な表現を求めたから」だと言う。
そう言いながらも、ドラムのスタン・リンチを除くハートブレイカーズの面々(マイク・キャンベル、ベンモント・テンチ、ハウイー・エプスタイン)がほぼ全編で参加しているのだけれども、しかしそのサウンドは、ロック・バンドというよりは、アコースティック楽器を多用した、カントリーやフォークのような趣のものが中心となっている。そのため本作は、他のアルバムに比べて、より個人的で内省的な印象だ。
本作は1994年11月にリリースされ、全米5位まで上昇し、300万枚を超えるセールスを記録した。
【オリジナルCD収録曲】
1 ワイルドフラワーズ
2 ユー・ドント・ノウ・ハウ・イット・フィールズ
3 タイム・トゥ・ムーブ・オン
4 ユー・レック・ミー
5 イッツ・グッド・トゥ・ビー・キング
6 オンリー・ア・ブロークン・ハート
7 ハニー・ビー
8 ドント・フェイド・オン・ミー
9 ハード・オン・ミー
10 キャビン・ダウン・ビロウ
11 トゥ・ファインド・ア・フレンド
12 ハイヤー・プレイス
13 ハウス・イン・ザ・ウッズ
14 クローリング・バック・トゥ・ユー
15 ウェイク・アップ・タイム
当時のトムは、最初の妻ジェーンとの結婚生活が崩壊に向かっていて、その個人的な苦悩や「自由への渇望」が歌詞の端々に反映されているようだ。
ブルース・スプリングスティーンやジョン・メレンキャンプと並んで〈ハートランド・ロック〉(米国の内陸部の農村・工業地帯のブルーカラーの生活や厳しい現実、報われない希望を歌う)の代表格と看做されていたトム・ペティの真価発揮といえる、誠実かつ円熟した表現による傑作だ。オルタナ・ムーヴメントの嵐の中に咲いた、可憐な野生の花だ。
本作は当初、CD2枚組25曲収録の大作の予定で制作が進められたが、レコード会社の意向で15曲に削られたという。残りの10曲は他のアーティストへの提供や、次作にも一部使われたが、2020年にはデラックス版として全25曲が陽の目を見ることとなった。
↓ オープニングを飾るタイトル曲「ワイルドフラワーズ」。トム・ペティはこの曲について次のように語っている「ただ深呼吸をしたらそのまま出てきたんだ。意識の流れのままに、言葉もメロディもコードも3分半で完成した」。
↓ 本作からのリード・シングルとしてリリースされた「ユー・ドント・ノウ・ハウ・イット・フィールズ」。全米13位まで上昇するヒットとなった。
(Goro)

