⭐️⭐️⭐️⭐️
The Undertones
“The Undertones” (1979)
ジャケット写真を見る限り、ファッションセンスのかけらもない、田舎者丸出しの、童貞クラブみたいな冴えない兄ちゃんたちだ。
彼らの希望で、ラモーンズの1stアルバムのジャケを真似して撮ったジャケットらしいのだけれども、どう見ても全然違う。モノクロっていうところしか合っていない。
そんな、アイルランド北部の町デリー出身の若者たちが、何のてらいもなく、ただ「良い曲」を作りたくて作った結果、とんでもない奇跡が生まれた。
それが彼らの1stアルバム『ジ・アンダートーンズ』である。
まあとにかく、曲が良い。
怒りも悩みも不安も喜びも、とりあえず良いメロディにしないと気が済まない連中なのかもしれない。
ラジオでラモーンズを聴いてパンク・ロックを始めたというバンドらしく、良い意味でのポップな音楽性をラモーンズから受け継いでいるようだ。
当時の英国のパンク・バンドと言えば、政治批判や社会問題を歌うのが主流だったけれども、アンダートーンズは、「女の子がかわいくてたまらん!」とか「退屈だな、何して遊ぼうか!」みたいな、超個人的な、恥ずかしいぐらい超リアルな感情を歌ったのだ。
本作は1979年5月に14曲入りで発売され、同年10月にシングルの2曲を加えて16曲で再発売された。以下はその再発売の収録曲で、現在もこの内容でCDが流通している。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1. Family Entertainment
2. Girls Don’t Like It
3. Male Model
4. I Gotta Getta
5. Teenage Kicks
6. Wrong Way
7. Jump Boys
8. Here Comes The Summer
SIDE B
1. Get Over You
2. Billy’s Third
3. Jimmy Jimmy
4. True Confessions
5. (She’s A) Runaround
6. I Know A Girl
7. Listening In
8. Casbah Rock
アンダートーンズを語るうえで絶対に外せないのが、A5「Teenage Kicks」だ。
ちょうどいい程度にラウドで、潔いぐらい短くて、甘酸っぱくて、どうしようもないほど青春してるこの曲は、イギリスの名物DJ、ジョン・ピールに「自分の葬式でかけてほしい」とまで言わせた伝説の名曲だ。ジョン・ピールはBBCラジオでこの曲をかけたとき、曲の途中で涙をこらえきれなくなったという逸話が残っているほどである(ホントか?)。
すべての「青春の衝動」の本質を、わずか2分半で曝け出した、奇跡の青春パンクだ。
「刺激が欲しい、あの娘を夜通しぎゅーっと抱きしめていたい、それが一番の興奮なんだ」なんて明け透けな、やっぱり童貞みたいなことしか言っていないけれども、それが思い通りにならない情けなさがいかにも切なくて、本当に泣けてくるほどだ。
その「Teenage Kicks」がやたらと有名なので、わたしもこの曲だけの一発屋のイメージがあったけれども、アルバムを聴いてみて驚いた。
3分以内の短い曲ばかりだけれども、どの曲にも耳に引っかかるフックがあり、自然に記憶に残るメロディがあり、退屈する隙もない。無駄に力んだり、気取ったりしていないところも好感が持てる。
ギターはガチャガチャしてるくせにメロディアスだし、ドラムもベースもタイトで聴きやすい。そしてヴォーカルのフィアガル・シャーキーのいかにもケンカが弱そうなヘナチョコ声が、なぜか胸に刺さる。
アンダートーンズは、このあと数枚のアルバムを出して、80年代半ばに解散する。しかし、このデビュー作だけで、彼らの名前は永遠にロック史に刻まれた。
青春パンク、メロディック・パンク、ポップ・パンク、そのすべての原点がここにある。
退屈な毎日にうんざりし、希望が見えない未来に不安になりながら、それでも生きるしかなくて、でもどうにかして楽しいことを見つけてやろうともがいている、いつの時代も変わらない青春をモヤモヤしながら過ごしている若者たちに贈られた、愛すべき爆音のタイムカプセルだ。
↓ アンダートーンズのデビュー・シングルで、永遠の青春パンク・アンセム「Teenage Kicks」。
↓ ラモーンズをお手本にしたような2ndシングル「Get Over You」。
(Goro)