⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
The Rolling Stones
“Sticky Fingers” (1971)
わたしが一番最初に夢中になったストーンズのアルバムがこれだった。
このLPレコードを買ったのは1985年だった。わたしは18歳で、アルバムはすでに発売から14年が経っていた。
当時はまだCD時代が始まったばかりだったが、CDのタイトル数などまだ少なく、わたしもまだCDプレーヤーを持っていなかった。それからわずか1〜2年後にはプレーヤーの値段が劇的に下がったこともあって手軽で便利なCDは急速に普及し、レコード店の店頭からアナログレコードを一掃してしまうのだったが、まだその頃のわたしは、あんな小さなおもちゃみたいな銀盤なんかより、あのデカくて黒光りした、丁寧に繊細に扱うことを強いられる、いかにも重々しい芸術商材という感じのするアナログレコードで買うことにこだわっていた。
それになんといってもこのアルバムのレコードジャケットには本物のジッパーが付いていて、ちゃんと開閉できる、ロック史上最も有名なジャケットのひとつでもある。デザインはアンディ・ウォーホルだ。CDにはもちろんジッパーなんか付いていない(後にジッパー付きのCDも限定盤で発売されたこともあったが、サイズ比が合わず、特大ジッパーの間抜けなデザインになっていた)。
とにもかくにもジッパーの付いていない『スティッキー・フィンガーズ』なんて買ってたまるかと、しかも中古や輸入盤ではなく、新品の国内盤で入手すると決め、あちこちのレコード店を探し回った。わたしの住む街のレコード店をひと通り巡ったが見つからず、名古屋の大型店まで電車に乗って行ってみたが、すでにレコードからCDへの移行が進んでいたためやっぱり見つからなかった。
タウンページでレコード店を調べて、休日のたびにあっちへこっちへと電車に乗って探し回り、数週間も経った頃、わたしの住む街から電車で40分ほど行った田舎町の駅前の、古くて小さなレコード店の壁面の棚に埃をかぶって挟まっているのを見つけることができた。
そのとき1回しか行ったことのないレコード店は名前も覚えていないけれども、天井まで届く背の高い棚の中に、レコードジャケットの細い背に『THE ROLLING STONES STICKY FINGERS』の文字を見つけた瞬間と、それを引っ張り出して、ジャケの真ん中に金色に光るYKKの文字の入った本物のジッパーを確認した時の感動、そして狭い店内の雑然とした光景と埃っぽい独特の匂いは、今でも忘れられない。
まだわたしにとっては3枚目か4枚目に聴いたストーンズのアルバムだったのだけれど、1回聴いただけで夢中になった。それまで聴いた洋楽のレコード(大した数は聴いていなかったけれども)のどれよりも好きになった。それからストーンズ沼にズブズブとハマり、抜け出せなくなったのだ。
それにしても、アルバムを聴いてあんなに興奮したり感動したりすることなんて、もうすっかりなくなってしまったな。
その後、金に困ってほとんどのレコードを売っ払ってしまったわたしだったが、これだけは決して売らなかった。およそ40年に渡ってレコードラックに大切に仕舞い込んでいたものだ。でも今年の正月に帰省した娘に「なんかレコードちょうだい」と言われて「はいよ」とあげてしまった。なので今はもうない。
本作は、ストーンズが立ち上げた新レーベル〈ローリング・ストーンズ・レコード〉の記念すべき第1弾として1971年4月にリリースされたアルバムである。プロデュースは前作、前々作に続いて、ジミー・ミラーである。つまり、いわゆる「ストーンズ黄金時代」の3作目ということになる。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
- ブラウン・シュガー
- スウェイ
- ワイルド・ホース
- キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング
- ユー・ガッタ・ムーヴ
SIDE B
- ビッチ
- アイ・ガット・ザ・ブルース
- シスター・モーフィン
- デッド・フラワーズ
- ムーンライト・マイル
本作からシングル・カットされたA1「ブラウン・シュガー」は全米1位、全英2位の大ヒットとなり、その後もほぼすべてのライヴツアーで演奏される代表曲となった。
ルーツ・ミュージックのブルースとカントリーがたっぷりと配合されながらも革新的であり、アートに偏りすぎず、ポップに偏りすぎず、そのうえストーンズ以外の何物でもなく、商業的にも通用させるという、絶妙で完璧なバランスの、ロックの新世界を創造した。
ミック・ジャガーも1995年のインタビューで本作について「妙な感じだった。まったく新しい世界だったよ。『ベガーズ・バンケット』が一時代前のものに思えたぐらいさ」と語っているほどだ。
さて、ちょっと記事の前半で思い出話に浸りすぎて、内容にあまり触れられなかったが、実は1年ほど前に本作の内容についてはたっぷり書いているので、気になる方はこちらをお読みください →最強布陣で新時代の幕開けを告げた革新的大傑作【ストーンズの60年を聴き倒す】#37
さらに、16年前にはちょっと変な記事も書いているので、興味のある方はどうぞ →【きょうの余談】『スティッキー・フィンガーズ』に一票
↓ 全米1位、全英2位の大ヒットとなった代表曲「ブラウン・シュガー」。
↓ キースとミックにカントリーを教えたとされる重要人物、グラム・パーソンズと共に書いたとされる曲「ワイルド・ホース」。
(Goro)