ザ・ローリング・ストーンズ『レット・イット・ブリード』(1969)【わたしが選ぶ!最強ロック名盤500】#146

レット・イット・ブリード(50周年記念1CDエディション)(通常盤)

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

【わたしが選ぶ!最強ロック名盤500】#146
The Rolling Stones
“Let It Bleed” (1969)

捨て曲一切なし、激ヤバな名曲と激シブの名曲だけで構成された、内容充実の大傑作だ。プロデューサーは前作に続き、ジミー・ミラーである。

前作『べガーズ・バンケット』でドロッドロのルーツ・ミュージックへと立ち還ったストーンズが、その方向性をさらにディープに突き詰め、掘り下げながら、しかし当時の凡百のブルース・ロック・バンドのような鈍重な懐古趣味に浸ったり、運動会のようにテクニックを競い合うのではなく、攻撃的な最新のロックに昇華し、新たなステージへと飛躍した作品だ。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ギミー・シェルター
2 むなしき愛(ロバート・ジョンソンのカバー)
3 カントリー・ホンク
4 リヴ・ウィズ・ミー
5 レット・イット・ブリード

SIDE B

1 ミッドナイト・ランブラー
2 ユー・ガット・ザ・シルヴァー
3 モンキー・マン
4 無情の世界

初期のストーンズはブルース、R&Bと黒人音楽一辺倒だったが、この時代あたりからカントリーの要素も目立ってくるようになる。
それはキースが、当時ザ・バーズに在籍していたグラム・パーソンズに出会った影響が大きいと言われている。キースは自伝で以下のように語っている。

1968年の夏にグラム・パーソンズと出会ったとき、俺はまだ発掘中だった音楽の鉱脈を掘り当てた。グラムとの出会いが自分の弾くもの、書くものの領域を広げてくれたんだ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)

「むなしき愛」はミシシッピのブルースマン、ロバート・ジョンソンが1936年から37年にかけて録音した伝説の29曲のうちの1曲だ。繊細に、美しく、格調高くアレンジした、入魂のカバーである。ストーンズがこのカバーを世に出したことは、ロバジョンのためにでっかい墓を建てたりするよりもよほど大きな意義があったと思う。

アルバムのタイトル曲である「レット・イット・ブリード」は、ビートルズの『レット・イット・ビー』のパロディのように思われがちだが(実際、わたしも昔はそう思い込んでいた)、実際はこっちのほうが半年早く発売されている。きっとあっちが真似したのだ。イアン・スチュワートのピアノがいい。

「ユー・ガット・ザ・シルヴァー」はキースが初めてリード・ヴォーカルをとった曲だ。
キースの自伝には「おれがソロで歌ったのは、仕事を分散して負担を軽減してやる必要があったからにすぎない」とちょっと謙遜したようにも書かれているが、その後ほぼすべてのアルバムでキースがリード・ヴォーカルをとる曲がお約束のように収録され、ファンには楽しみのひとつとなっていった。

「モンキー・マン」もまたアブない曲だ。

おれは注射痕だらけのクスリ好きの猿、友達全部ジャンキーだ
おれは割れた玉子を詰めた麻袋、ベッドはいつもぐっちゃぐちゃ
おれはモンキー・マン、おまえはモンキー・ウーマン、嬉しいな

不気味なほど美しい響きのピアノのイントロから始まり、ハードなギターとサディスティックなグルーヴが責め立てる。まるで、精神病棟の閉じ込められた寄り眼のジャンキーが猿のように飛び跳ねる、ユーモラスなのか怖すぎるのかよくわからない光景を眺めているような気分になる曲だ。

「カントリー・ホンク」は先行シングルとして大ヒットした「ホンキー・トンク・ウィメン」のカントリー・バージョン、「無情の世界」もその後のライヴの定番となった名曲、「リヴ・ウィズ・ミー」はベースのリフからシビれる、本作中最もソリッドでカッコいい曲だ。

そして、このアルバムがリリースされた1969年12月5日の翌日に、あのオルタモントの悲劇が起こっている。

カリフォルニア州オルタモント・スピードウェイで20万人とも言われる観客を集めた無料コンサートで、「アンダー・マイ・サム」の演奏中に、会場警備を担当したバイカー集団、ヘルズ・エンジェルスのメンバーの手により、観客の黒人青年が刺殺された。

なぜそんな反社みたいな連中に警備なんて任せたのか理解に苦しむが、会場が決まったのがライヴの直前だったり、とにかく杜撰な計画とバタバタの中で決まったらしい。他にも暗闇に寝転んでいて車に轢かれた観客が2人、ラリっていて警官に追われ用水路に落ちた観客など、全部で4人が死亡する惨事となった。

「愛と平和と音楽のウッドストック」の成功からわずか4ヶ月後の「混沌と殺人と音楽のオルタモント」だった。まるでロックというコインの表と裏をいっぺんに見せられたような、1960年代の幕切れだった。

↓ アルバムの幕開けを飾る不穏で禍々しい大名曲「ギミー・シェルター」。ストーンズが反戦や政治について歌うことは滅多になかったが、これほど破壊や殺戮による地獄絵図のイメージをリアルに喚起させた曲もなかなかないだろう。

Gimme Shelter (Remastered 2019)

↓ 「ミッドナイト・ランブラー」はシカゴ・ブルースをベースにした独創的なブルース・ロックだ。歌詞は1960年代前半に起きた米ボストンの連続殺人事件(19歳から85歳までの女性13人が性的暴行のうえ殺害された)を題材にしている。「真夜中の徘徊者に気をつけろ」と歌う、ちょっとしたホラー・テイストの歌詞だ。

The Rolling Stones – Midnight Rambler (Official Lyric Video)

(Goro)

コメント

  1. アイアイ♪ より:

    ベガーズ・バンケット~メインストリートまでの4作が、ストーンズの代表作であることに異論のある方はほぼいないかと思いますが、では最高傑作は?となるとなかなか難しいですよね。
    中学生の時に出会って以来、40年近く聴いてきて、最近やっと結論がでましたが、僕的にはベガーズ・バンケットが最高ということで落ち着きました~♪
    メインストリートのならず者は、近年では最高傑作とされていますが、僕が学生の頃はビートルズのホワイトアルバムと一緒で、傑作だが散漫であるとの評価でしたよね。時代やリスニングの経験値によって印象が変わるから、そこがまた楽しいものです。

    • Goro より:

      アイアイ♪さん、コメントありがとうございます!

      ストーンズ好きなら誰もが突き当たる難問ですね。

      ちょうど1年ほど前に下記の記事で、意を決して無理やり順位をつけてみましたが、わたしもアイアイさんと同じく、べガーズを1位にしました。
      「ザ・ローリング・ストーンズ【名盤ベストテン】」

      でもあらためてこうして『レット・イット・ブリード』を聴いてみると、これも全然1位でもいいぐらいの名盤だなあと思ってしまいますね。

      やはり永遠の難問のようです。