⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
The Rolling Stones
“Exile On Main St” (1972)
前年にバンドのレーベル〈ローリング・ストーンズ・レコード〉を立ち上げ、その第1弾としてリリースしたアルバム『スティッキー・フィンガーズ』は世界的なヒットとなり、大成功の船出となった。
しかしイギリス政府は、彼らが稼いだ金の99%を税金で取り上げようと企み、それに辟易したミック、キース、ビルはイギリスから逃げ出してフランスへと移住した。
本作は、キースがフランスに構えた広大な邸宅で、バンドのメンバーやプロデューサー、エンジニア、ゲストミュージシャンたちが寝泊まりしながら、広い地下室で録音されることになった。
まるで合宿みたいな和気藹々とした雰囲気かと思いきや、子供たちを寝かしつけるなりヘロインを注入するキースをはじめ、プロデューサーもゲストミュージシャンもラリってたり酔っ払ってたり、誰がどこにいるのか大邸宅の中を探し回ったりで遅々として作業が進まず、雰囲気は最悪だったという。「ダイスをころがせ」や「ハッピー」など何曲かのドラムをチャーリーではなくプロデューサーのジミー・ミラーが叩いているのは、そんな状況に嫌気がさしたチャーリーが帰ってしまったからだという。
そのような悪環境で録音された本作は、ラフでルーズそのものであり、商売っ気もなければ、芸術性や完成度にこだわるわけでもない、飾らない素のままのストーンズをあえて晒したような、荒っぽく無骨な生々しさがその魅力でもある。
発売当初は随分と不評も買ったらしいが、それもよくわかる。
わたしも初めて聴いたときは「なんだこりゃ?」と戸惑ったことを覚えている。演奏や録音がやけに粗く思えたし、酔っ払って歌ってるみたいに聴こえるものもあれば、どうしたのこれ?と思うぐらいヘンな楽曲も収録されている。完成度が高く、キャッチーな印象の前作『スティッキー・フィンガーズ』とはずいぶん違う印象だった。
当時十代だったわたしはきっと「しっかりと作り込まれ、加工された、とっつきやすく、聴きやすいロック」を無意識に求めていたのだと思う。
本作はまったくその逆だ。たいして作り込まれてもいないし、素材のまま投げ出されたような、とっつきにくく、聴きやすさなんて考慮されていない、ましてやシングルヒットなんて狙ってもいない、素のままのローリング・ストーンズの音楽があるだけだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1. ロックス・オフ
2. リップ・ジス・ジョイント
3. シェイク・ユア・ヒップス
4. カジノ・ブギー
5. ダイスをころがせ
SIDE B
1. スウィート・ヴァージニア
2. トーン・アンド・フレイド
3. 黒いエンジェル
4. ラヴィング・カップ
SIDE C
1. ハッピー
2. タード・オン・ザ・ラン
3. ヴェンチレイター・ブルース
4. 彼に会いたい
5. レット・イット・ルース
SIDE D
1. オール・ダウン・ザ・ライン
2. ストップ・ブレーキング・ダウン
3. ライトを照らせ
4. ソウル・サヴァイヴァー
ソウルフードとジビエと釣ってきた魚と気まぐれな料理を出す酒場のごちゃついたメニューみたいな、気楽だが味わい深いカオスに酔える、ロック史上最もクールな名盤である。
アルバムは前作に続き、全英1位、全米1位、日本でもオリコン7位と、世界的なヒットとなった。
わたしが特に好きな曲を3曲あげるとしたら、「スウィート・ヴァージニア」「ラヴィング・カップ」「ライトを照らせ」かな。
本作については、実は1年半ほど前にも記事を書いている。
収録曲についてはこちらの方に詳しく書いているので、興味のある方はご参照ください。→『荒っぽくて無骨な素のままのストーンズが堪能できる傑作【ストーンズの60年を聴き倒す】#37
↓ シングルカットされ、全英5位、全米7位のヒットとなった「ダイスをころがせ」。ほとんどのライヴで演奏される定番曲のひとつだ。
↓ 本作からの2枚目のシングルとしてリリースされ、全米22位のヒットとなった「ハッピー」。キース・リチャーズがリード・ヴォーカルを取る代表曲だ。
(Goro)