The Rolling Stones
side A イッツ・オール・オーヴァー・ナウ(ヴァレンティノズのカバー)
side B グッド・タイムズ、バッド・タイムズ(ジャガー&リチャーズ)
1964年6月1日、ストーンズのメンバーは初めてアメリカの地、ニューヨークに上陸した。初めてのUSツアーだったが、客の入りは最悪だったという。
しかしその嫌なムードを吹き飛ばしたのは、彼らの憧れの聖地への訪問が実現したことだった。
サウス・ミシガン・アヴェニュー2120番地。
マディ・ウォーターズ、チャック・ベリー、ハウリン・ウルフ、ボ・ディドリー、バディ・ガイ、リトル・ウォルター、ジミー・ロジャース、ココ・テイラー、エタ・ジェームスなどなど、シカゴ・ブルースの錚々たる面々を排出した、チェス・レコードの本社だ。
そして、彼らが心を奪われ、バンドを組むきっかけになった、多くの名曲が録音された憧れの空間、チェス・スタジオでレコーディングもできることになった。
彼らがチェス・スタジオに着いた時に、彼らのヒーローである、あのマディ・ウォーターズが外壁のペンキ塗りをしているところに遭遇した逸話は有名だ。
当時のマディはあまりレコードが売れていなくて、そんな雑用をさせられていたらしい。マディはストーンズのアンプなどの機材をスタジオまで運ぶ手伝いもしてくれたという。
ストーンズはそのスタジオで、たった2日間で14曲を録音したという。そのうちの1曲がこの「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」だった。
この曲は、当時サム・クックのバックバンドを務めていたヴァレンティノズのギタリスト、ボビー・ウーマックが義姉のシャーリーと共に書いた曲だ。
当初ウーマックは、ストーンズにこの曲を録音させることを嫌がったそうだが、プロデューサーでもあるサム・クックが彼を説得し、録音を許可させたという。
ストーンズはニューヨークで初めてこの曲を聴き、その9日後にはチェス・スタジオで録音している。この曲はシングルとしてリリースされることになり、ストーンズにとって、記念すべき初の全英No.1シングルとなった。アメリカでもビルボードの26位まで上昇した。
ヴァレンティノズのオリジナル・ヴァージョンは、パワフルなカントリーR&Bといった感じだが、ストーンズはそこにスピード感を加え、ブライアンの12弦ギターとキースのソロというエレキギターを中心にしたスタイルで、ブリティッシュ・ビートに変貌させた。完成度の高い、カッコいいアレンジだ。
B面に収録されたのはジャガー&リチャーズによるカントリー・ブルース風のオリジナル作だ。派手さはないけれども、雰囲気はある。
ストーンズが60年代にリリースしたシングルはこの『シングル・コレクション:ザ・ロンドン・イヤーズ』で、年代順にA面・B面ともすべて聴くことができる。ストーンズ・ファン必携のアイテムだ。
(Goro)