もしかすると史上初のパンク・アルバム【ストーンズの60年を聴き倒す】#21

ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォント・イット!

『ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォント・イット!』(米国盤)

Got Live If You Want It! [US](1966)
The Rolling Stones

初期のストーンズのレコードは、英国盤と米国盤で内容が違うものが発売されていた。シングルもそうだし、アルバムもだ。

基本的にこの連載では英国盤だけを取り上げている。米国盤はシングルやEPの楽曲をアルバムにぶっ込んだり、そうやって省かれた曲だけでまた1枚編集盤を作ったりと、やりたい放題だが、トータルで見れば英国盤と曲はカブっているわけなので米国盤はすべてスルーでも良かったのだ。

しかしこのライヴアルバムだけは米国盤でしか出ていない。なのでこの連載21回目にして、初めて米国盤を取り上げることになる。

同一タイトルのライヴ盤を#12の記事ですでに紹介しているが、あれは英国でのみリリースされたEP盤で、内容もまったく違うものだ。今回取り上げる米国盤の『ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォント・イット!』はフルサイズのLPであり、タイトルだけを英国EP盤から拝借したものだ。

SIDE A

  1.  アンダー・マイ・サム – Under My Thumb
  2.  一人ぼっちの世界 – Get Off Of My Cloud
  3. レディ・ジェーン – Lady Jane
  4. ノット・フェイド・アウェイ – Not Fade Away
  5. 恋をしすぎた – I’ve Been Loving You Too Long
  6. フォーチュン・テラー – Fortune Telle

SIDE B

  1. ラスト・タイム – The Last Time
  2. 19回目の神経衰弱 – 19th Nervous Breakdown
  3. タイム・イズ・オン・マイ・サイド – Time Is On My Side
  4. アイム・オーライト – I’m Alright
  5. マザー・イン・ザ・シャドウ – Have You Seen Your Mother Baby, Standing in the Shadow?
  6. サティスファクション – (I Can’t Get No) Satisfaction

1966年11月にリリースされたこのライヴ・アルバムはアメリカのロンドン・レコードの要請で編集された公式のライヴ・アルバムだが、ストーンズはその出来に満足しておらず、本作を認めていないという。

A-5、A-6はスタジオ録音の音源に観客の歓声を被せただけの擬似ライヴだし、「サティスファクション」はなぜかフェイド・アウトするし、ジャケットにはロイヤル・アルバート・ホールでのライヴとクレジットされているが、実際にはニューカッスルとブリストルでのライヴであるなど、なんとも中途半端さや不備が多く、正式なライヴアルバムと言いたくないのはよくわかる。

わたしも初めて聴いたのが、まだストーンズのレコードを集め始めた十代の頃だったので、「演奏は荒っぽいし、観客はうるさいし、音はガチャガチャしてクソやかましいし、酷いものだ。買って損した」ぐらいに思ったものだった。

しかしその後、パンクの洗礼を浴び、90年代にはオルタナティヴ・ロックにハマった後で、何十年ぶりかに聴いてみたときに、ぶっ飛ばされるぐらいの衝撃をあらためて受けたのだった。

Under My Thumb (Live)

前のめりの暴力的なビートに、汚い爆音を撒き散らすギター、唾が飛んできそうな喧嘩腰のヴォーカル、こんな凄まじく激しい野蛮なライヴをやっていたのかとあらためて驚いたものだった。

そうか、ラモーンズもクラッシュもダムドも、こういうのをやろうとしてたのか、と思った。
もしかするとこれは、史上初のパンク・アルバムだったのかもしれない。

satisfaction (live)

当時のブリティッシュ・ビート全体でも、この時期のライヴ盤というのは他にヤードバーズなどごくわずかしないし、その意味で当時のリアルな臨場感が記録されていることでも貴重なアルバムと言えるだろう。選曲も当時のヒット曲が中心に選ばれていて、文句なしだ。

(Goro)