『エル・モカンボ 1977』(2022)
The Rolling Stones
前回取り上げた『ラヴ・ユー・ライヴ』のC面〈エル・モカンボ・サイド〉に収録された4曲は、チェス・レコードの四天王をカバーした、ストーンズのルーツの再確認とも言えるもので、これぞストーンズと言うべき圧巻の演奏だった。
その4曲は、1977年3月4日と5日に行われたエル・モカンボでのシークレット・ライヴから抜粋されたものだったが、その2日間の公演から23曲を収録したのが本作だ。45年の時を経て、2022年5月13日にリリースされた。
エル・モカンボは、カナダ・トロントにある、キャパ500人の小さなクラブだ。もともと『ラヴ・ユー・ライヴ』に何曲か収録する目的で開催されたシークレット・ライヴだったため、選曲もそれ用に、通常のツアーで演奏していない曲もあえて選んでいるようにも見える。
以下は本作の収録曲だ。
1. Honky Tonk Women
2. All Down the Line
3. Hand of Fate
4. Route 66
5. Fool to Cry
6. Crazy Mama
7. Mannish Boy
8. Crackin’ Up
9. Dance Little Sister
10. Around and Around
11. Tumbling Dice
12. Hot Stuff
13. Star Star
14. Let’s Spend the Night Together
15. Worried Life Blues
16. Little Red Rooster
17. It’s Only Rock ‘n Roll (But I Like It)
18. Rip This Joint
19. Brown Sugar
20. Jumpin’ Jack Flash
21. Melody
22. Luxury
23. Worried About You
「ハンド・オブ・フェイト」「クレイジー・ママ」「ダンス・リトル・シスター」「メロディ」「快楽の奴隷」などのライヴ・バージョンが聴けるのは本作だけなので嬉しいし、ブルースの古典”Worried Life Blues”のカバーはオリジナル・アルバムにも収録されていない貴重音源だ。また、後に『刺青の男』(’81)に収録される「ウォリード・アバウト・ユー」もすでに披露されている。
ちなみにキースは、このライヴのためにカナダに入国した折に、いつものようにたっぷり打ち込んでホテルで爆睡しているところをカナダの騎馬警察隊に踏み込まれ、隠し持っていたヘロインが見つかって警官に平手打ちで叩き起こされ、逮捕された。
1,000ドルを納めて保釈中の身で行われた、現代では考えられない珍しいライヴとなったが、音を聞く限りではキースも普段と変わりなく元気に演奏している。
カナダ警察にヘロインを全部没収されたはずで、そうなると演奏などできる状態ではないはずだが、演奏できているということはどこかからヤクを入手したわけだ。キースの自伝にはこう書かれている。
まず最初に来てくれたのがビル(ワイマン)だった。あいつは俺に言った。何かできることがあるか? だから、俺はありのまま言った。薬が切れて、すこし必要なんだ。もちろんビルの領分じゃない。しかし、あいつは言った。なんとかやってみる。そして、つてを見つけてくれた。エル・モカンボ・クラブで仕事をしたことがあったから、地元にルートがあったんだ。ビルは俺を窮地から救い出すために、みごと少量手に入れてきた。俺が集めていた注目を考えたら、ビルにとっても大きなリスクだったはずだ。この件はビルのことで覚えている、いちばんグッと来る出来事だったよ。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)
そのビルが手配してくれたやつを打ち込んでのライヴ演奏は素晴らしいものとなった。
『ラヴ・ユー・ライヴ』が、ストーンズのライヴではお馴染みの曲が多いベスト盤的な内容だったのに対して、ブルースやR&Bのカバーや、アルバム収録の隠れた名曲も多く、コアなファンには嬉しい内容だ。
演奏も良いし、録音もやや奥行きのあるリアルなもので、正直、わたしも『ラヴ・ユー・ライヴ』よりも本作の方が好きなのだ。
(Goro)
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