『フラッシュポイント』(1991)
The Rolling Stones
ストーンズにとって8年ぶりとなったライヴツアー、1989年から90年にかけて行われたスティール・ホイールズ・ツアーとアーバン・ジャングル・ツアーの模様を収録したライヴ・アルバムだ。1991年8月にリリースされた。
記念すべき初の日本公演からも3曲が収録されている。「ルビー・チューズデイ」には歌う前に「チョットココデペースヲオトシマス」というミックのカンペを読みながらの日本語MCも収録されているし、「悪魔の憐れむ歌」の後では「マダマダツッヅクヨー!」とも言っている。「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」も東京ドーム公演からの収録だ。
当時23才のわたしも東京ドームへ初めてストーンズを観にいったわけだけれども、スタジアムでライヴを観るということがそもそも初めてだったこともあり、普通のコンサートホールとはまったく別物の印象で、正直言ってどう楽しめばいいのかよくわからなかった。
スタンド席なので、当然演奏しているストーンズの姿などほとんど見えないわけで、巨大スクリーンに映し出される映像を見ているだけだし、音もステージ脇のPAよりも、頭の上にぶら下がっていたBOSEの小型スピーカーから出ているギュッと小さく圧縮されたような音を聴いている感じだったし、派手な照明や演出も含めて、ライヴというよりはテーマパークのアトラクションみたいに思えたものだった。スタジアム・ライヴの楽しみ方がどうにもわからなかったわたしはその後は一度もスタジアムのライヴに行っていない。
本作には14曲のライヴ演奏が収録されている。演奏も良いし、音質も良いが、いかにもスタジアム的な音である。今回は特にミックのこだわりらしいが、大勢のサポートメンバーや時には電子楽器やテープも使って、できる限りオリジナルのアレンジに近づけようとしていたらしい。若い頃のラフで勢いに任せたライヴとはずいぶん違う印象だが、これが成熟した大人ストーンズの完成形ということなのだろうか。ひねくれたことを言いたいわけではないが、こんなに丁寧に演奏し、お金もかけて作ってくれたのに、過去4作のライヴ・アルバムに比べてもいちばんつまらなく感じてしまうわたしはいったい何を求めてるのだろう、と哲学的思索に捉われてしまうのであった。
- Start Me Up
- Sad Sad Sad
- Miss You
- Rock and a Hard Place
- Ruby Tuesday
- You Can’t Always Get What You Want
- Factory Girl
- Can’t Be Seen
- Little Red Rooster
- Paint It Black
- Sympathy for the Devil
- Brown Sugar
- Jumpin’ Jack Flash
- (I Can’t Get No) Satisfaction
- Highwire
- Sex Drive
選曲は、その半分が過去のライヴ盤にも収録されたことがある曲だ。初めてライヴ盤に収録された7曲のうちの、20年ぶりぐらいに演奏したという「黒くぬれ」「ルビー・チューズデイ」あたりが本作の目玉となるのだろう。どちらも立派な演奏だ。「ファクトリー・ガール」もサプライズ的な選曲だ。「リトル・レッド・ルースター」にはゲストでエリック・クラプトンが参加している。
本作の最後には、1991年3月にリリースされていたシングル「ハイワイヤー/セックス・ドライヴ」の2曲が収録されている。
1991年と言えば、クウェートに侵攻したイラクに対し、アメリカを中心とする多国籍軍が空爆を開始した,いわゆる〈湾岸戦争〉がおっぱじまった年だ。これにミックが触発されて書かれたのが「ハイワイヤー」だ。わたしはこの曲が結構好きだ。
反戦歌というよりは、「綱渡り(highwire)」のような危なっかしいギリギリの状況を作り出しているわれわれ現代人の生き方について歌われている。
ミサイルや戦車を売るのもただのビジネスだ
プライドなんてない、だれのブーツでも舐める
おれたちはとことん欲が深く、病気みたいなもんだおれたちは綱渡りをしてる
そして男たちを戦場に送ることになるんだ
彼らが冷たいウソによって熱い銃を握らされ
地獄の炎に包まれないことを願っている
アルバムは全米16位、全英6位、そして日本でオリコン4位と、日本でもよく売れたようだ。
(Goro)