⭐️⭐️⭐️
The Pretenders
“Learning To Crawl” (1984)
前作から2年半というやや長めのスパンでリリースされた3rdアルバムだったが、その2年半の間に実のところプリテンダーズというバンドはほぼ崩壊し、存続の危機に立たされていた。
前作発売後の1982年、ベーシストのピート・ファンドンは、ヘロイン中毒を悪化させ、バンドメンバーに対して極めて攻撃的になっていったという。
それに業を煮やしたギタリストのジェイムズ・ハニーマン=スコットは、クリッシー・ハインドに対して「ファンドンを解雇しないなら俺が辞める」と告げた。クリッシーも同意見で、「本当にひどい状態で、一緒に仕事ができる人間ではなかった」ファンドンを、1982年6月にやむなく解雇を言い渡した。
しかし、クリッシーがファンドンに解雇を告げたそのわずか2日後に、それを要求した当のジェイムズ・ハニーマン=スコットが、ガールフレンドの部屋でコカインを使用して心不全に陥り、急死してしまった。享年25歳だった。
それからさらに10ヶ月後の1983年4月、バンドを解雇されたピート・ファンドンも、ヘロインを過剰摂取し、自宅の浴槽で溺死しているのを妻が発見した。享年30歳だった。
立て続けに二人の仲間を失ったクリッシーは、大きな喪失感を抱えながらもバンドの存続を決意し、残った唯一のメンバーでドラマーのマーティン・チェンバースと共に新メンバーを探しながら、本作の制作を始めた。そのときのことをチェンバースは次のように語っている。
「クリッシーはどんなに傷ついていても、スタジオでは一分の隙もなかった。あの時期、彼女の意志の強さには感服した」(モジョ誌 2007年)
そしてクリッシー・ハインドは本作について次のように語っている。「あのアルバムは私にとって一種のセラピーだった。ジミーとピートを失って、ただ音楽にしがみつくしかなかったの」(BBCラジオ2インタビュー 2004年)
ギタリストにロビー・マッキントッシュ、ベーシストにマルコム・フォスターを迎えて制作された本作は、年を跨いで1984年1月にリリースされ、全米5位、全英11位の大ヒットとなった。ちなみに、この頃からCDの普及が始まり、本作はLPとほぼ同時期にCDも発売されている。
【オリジナルCD収録曲】
1 ミドル・オブ・ザ・ロード
2 チェイン・ギャング
3 タイム・ジ・アヴェンジャー
4 ウォッチング・ザ・クローズ
5 ショウ・ミー
6 サンベリーナ
7 マイ・シティ
8 ラヴ・アンド・ヘイト
9 アイ・ハート・ユー
10 2000マイルズ
「チェイン・ギャング」はアルバムに先駆け1982年9月に、ジェイムズ・ハニーマン=スコットの追悼の意を込めてシングル・リリースされた。全米5位、全英17位のヒットとなり、プリテンダーズにとって初めて全米トップ10入りした出世作となった。
滅法カッコいいオープニングの「ミドル・オブ・ザ・ロード」も全米19位まで上昇し、アルバムの最後を飾る「2000マイルズ」は全英15位のヒットとなった。
クリスマスに遠く離れた恋人を想う気持ちを歌った「2000マイル」は、現在でもクリスマスの時期になると英国のラジオなどで流れる人気曲だ。しかしクリッシーが「“2000 Miles”はよくクリスマスソングだと言われるけど、私にとってはそれ以上のものよ」(BBCラジオ2インタビュー 2004年)と語っているように、直前に失った二人の盟友のことを歌っていると思われる。
アルバムのタイトルは「(赤ん坊が)ハイハイを覚える」という意味だが、これはクリッシーとレイ・デイヴィスの間にできた娘、1歳のナタリーがハイハイを覚えたことに由来しているが、「人生を一からやり直す」という意味も込められているという。
ちなみに、レイ・デイヴィスとは結婚せず、クリッシーはシングルマザーとして娘を育てた。そしてその後二度結婚し、二度離婚している。人生、波乱万丈である。
クリッシー・ハインドの声は、感情豊かで、艶やかで、力強く、その存在感は強烈である。
↓ オープニングから戦闘モード。当時のレーガン政権下でのアメリカの保守化や、有名になると声を上げなくなる風潮に違和感をぶつける「ミドル・オブ・ザ・ロード」。
↓ ジェイムズ・ハニーマン=スコットへの追悼の意を込め「日々は辛く、同じことの繰り返しだけど、あなたの面影は今も私のそばにある」と歌う「チェイン・ギャング」
(Goro)
コメント
このアルバムは中学生の時にアナログで買いました。
冒頭の2曲に、中坊は完全にヤラレました。
ミドル・オブ・ザ・ロードのPVは、当時小林克也さんのベストヒットUSAで視聴し、
なんてカッコいい女性なんだ!と驚嘆し、憧れ、英国への憧憬を深めたものです。
クリッシー・ハインドが、実は米国人だと知ったのは随分後になってからでしたが(笑)、
それでも英国で築き上げたキャリアの裏側にある物語を同時に知るにつけ、
それまで以上にリスペクトするようになったのは当然の成り行きですね。
確かに、冒頭の2曲は今聴いてもヤラレますね!
正直、よく聴くとその後はちょっと弱いのですが、冒頭から立て続けに強力な曲が並び、最後がキレイに終わると、なんとなく名盤の印象が強く残るという、そんな典型例だと思います(笑)