轟音ギターの元祖が再降臨 〜ジーザス&メリー・チェイン『ハニーズ・デッド』(1992)【最強ロック名盤500】#335

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⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#335
The Jesus & Mary Chain
“Honey’s Dead” (1992)

ジザメリの確信犯的なカッコ良さというのは、ちょっと他にはないものがあった。

彼らはまるでストリート・アートの天才みたいな、なんでもありなのが自由でカッコいい、偉大なるアマチュアのようでもあった。

音楽もまあ実際にはたいしたことない曲でも、それを実質以上に、圧倒的にカッコ良く見せることに長けていたと思う。

タイトルの付け方のセンスや、妖しげなジャケやPV、刺激的な歌詞、そして最後には強烈なノイズで全体を覆ってしまい、前衛アートのような佇まいを創り出してしまう。そういうアマチュアリズムもろ出しのアーティスティックな才能が面白かった。

89~91年にかけての英米同時多発ロック革命はどちらも轟音ギターが主軸となっていたけれども、それも元はと言えばジザメリの84年のデビュー・シングル「アップサイド・ダウン」からすべてが始まったようなものだったのだ。

そして90年代にその弟子筋たちがあちこちで花開いた後で、オルタナ・ファンたちの期待と注目を一身に浴びて、ついに轟音ギターの真打登場!よっ!待ってました!という空気感で迎えられたのが、1992年3月にリリースされた4thアルバム『ハニーズ・デッド』だった。

【オリジナルCD収録曲】

1 レヴァランス
2 ティーンエイジ・ラスト
3 ファー・ゴーン・アンド・アウト
4 オールモスト・ゴールド
5 シュガー・レイ
6 タンブルダウン
7 キャッチファイア
8 グッド・フォー・マイ・ソウル
9 ローラーコースター
10 アイ・キャント・ゲット・イナフ
11 サンダウン
12 フリークエンシー

彼らがさすがなのは、時代の要請をまったく裏切らなかったことだ。みなさんのお望みどおりのものを作って差し上げたでございますよ、と言わんばかりの、轟音ギター満載、ストレートなロックンロールもあれば、当時流行のダンスビートやヒップホップを取り入れたものもあり、刺激的でカッコいい歌詞も相変わらずな、ジザメリの集大成とも言える作品を出してきたのである。

とくに1曲目の「リヴァランス」はその歌詞も含めて注目を集め、物議を醸した。

おれはキリストのように死にたい
針のベッドの上で死に、天国を見てみたい
おれはジョン・F・ケネディのように死にたい
よく晴れた日に、アメリカで死にたい

魂を売り渡しはしない
でも半分だけなら売ってもいい
おれの魂が半分欲しいのなら
黄金と交換だ
(written by William Reid, Jim Reid)

まあ歌詞としては笑ってしまうぐらいカッコいいけど、きっと深い意味はなにも無いと思う。良い意味で中身の無いポップアートのような軽さの感じが、どうにも好きなのだ。

それまでの3枚のアルバムは、ラジオでオンエアするのが無理なほど極端なノイズの洪水だったり、人に薦めるのが憚られるほど暗すぎたり、ちょっとどうかと思うぐらい機械に頼りすぎて単調になったりと、どこか完成度が低いのが大衆ウケしない弱点でもあり、個性でもあった。

しかし本作は、名物の轟音ギターの鳴りっぷりも充分だし、殺伐としていても明るさがあったり、機械ドラムと生ドラムの両方を使って単調にならないように工夫したりと、バランスよく整った、完成度の高い作品に仕上がっている。

本作もまた、1992年のロック・シーンを象徴するようなアルバムのひとつである。

↓ 歌詞が物議を醸してBBCテレビでは放送禁止にもなったが、全英10位まで上昇するヒットとなった「リヴァランス」。

↓ 本作から3枚目のシングルとしてリリースされた「オールモスト・ゴールド」。

(Goro)

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