⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
The Doors
“The Doors” (1967)
こうしてロックの名盤を年代順に聴きながら選んでいると、このバンドが当時いかに規格外で、突然変異的なロックバンドだったか、あらためて驚嘆させられる。
ベースがいない代わりにキーボードを異常発達させたようなそのサウンドがまず奇型的であり、その音楽性は背徳的である。
ジム・モリソンという男は、まるで性的な肉体と詩的な思索だけで出来ている、ギリシャ神話に出てくる古代の人類のようだ。
その声は獣のようでもあり、ひときわ進化した知性で雌たちを支配する王のようでもある。そして彼は、今に至るロックスターの原型となった。
彼らの生み出した前代未聞のポップソングは、前世紀のサーカスの見世物小屋のように華やかかつ不気味であり、忘れがたい記憶を残した。
本作『ハートに火をつけて』は1967年1月にリリースされた、ドアーズの1stアルバムである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ブレーク・オン・スルー
2 ソウル・キッチン
3 水晶の舟
4 20世紀の狐
5 アラバマ・ソング
6 ハートに火をつけて
SIDE B
1 バック・ドア・マン
2 君を見つめて
3 エンド・オブ・ザ・ナイト
4 チャンスはつかめ
5 ジ・エンド
全11曲中、A5「アラバマ・ソング」がクルト・ヴァイルのオペラからのナンバー、B1「バック・ドア・マン」がハウリン・ウルフのカバーである以外はオリジナルである。
デビュー・シングルとなったA1「ブレイク・オン・スルー」はわたしが初めてドアーズを聴いて一瞬でシビれた名曲だが、シングルは全米126位と売れなかったらしい。
そして起死回生の2ndシングルとなったのがA6「ハートに火をつけて」で、全米1位、全英7位など、世界各国で大ヒットを記録した。
この「ハートに火をつけて」はアルバムバージョンが約7分あるのに対し、シングルバージョンは途中の間奏をカットし、約3分に縮められている。アルバムでの7分は長く感じる時もあるが、しかし3分のバージョンを聴いてみるとなんとも味気ない、嘘くさいものを聴いたような気分になるものだ。やっぱりこの名曲は7分が正解だったのだろう。
B5「ジ・エンド」はもっと長く、11分半もある、極め付けの不気味で不穏当な曲である。「ハートに火をつけて」がドアーズの表の顔ならこっちの「ジ・エンド」は裏の顔であり、このどちらもがドアーズのイメージを形作っている。「ジ・エンド」は1979年の映画『地獄の黙示録』で印象的に使われたことでもよく知られている。
他にもB4「チャンスをつかめ」、A3「水晶の舟」、B1「バック・ドア・マン」などもわたしは気に入っていた。
本作はデビュー盤にしては異様に完成度が高く、全米アルバムチャートの2位まで上がる大ヒットとなった。それにしてもよくこんなヤバいものが売れたものだと思う。1967年という時代ならではのことだろう。アメリカ人の大半がラリっていた時代だからだ。
しかし本作にはこれまでのロックにはなかったような、文学やアート、ジャズやクラシックの要素なども含まれ、ロックの間口を一気に拡げた。ロックの進化における重要な突然変異体となったのだ。
ドアーズには他にも名盤がいくつかあるが、最初に聴くならこれ一択である。
↓ デビュー・シングルの「ブレイク・オン・スルー」。「向こう側に突き抜けろ」と言う意味の、ドラッグ・ソングでもあるが、まさにドアーズの突き抜けた音楽を言い表している名曲でもある。
↓ 世界的ヒットとなった代表曲「ハートに火をつけて」。
(Goro)