⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
The Beach Boys
“Pet Sounds” (1966)
完成度が高すぎるのか低すぎるのか、それすらもわからないほど、奇妙で不思議なアルバムである。ロックかどうかすらもよくわからない、ポピュラー音楽史上における究極の絶品珍味とも言える。しかしそれは60年代のロックシーンを激震させ、ロックの概念を変えるほどに大きな影響を及ぼした。
実のところわたしは、ビーチ・ボーイズの音楽をそれほど好んで聴くほうではない。
男の裏声によるコーラスはわたしにとってはそれほど気持ち良くないからだ。はっきり言えばちょっと気持ち悪い。
しかしこのアルバムの印象は強烈である。いくぶん奇天烈ではあるけれども、なぜか絶妙に美しい。こんなロックアルバムはほかにひとつもない。
これを書くためにわたしはこのアルバムを大音量で聴きなおしてみたが、全13曲36分間のあいだ、ほかになにもせず、退屈することなくずっと宙を見つめたまま聴いていられた。
この豪華かつ変テコなサウンドをじっくり舐めるように味わい、耳にのこるメロディや奇妙なハーモニー、美しいアレンジや意外な展開を追いながら聴いていると、アルバムはあっという間に終わってしまう。36分がものすごく短く感じられる。
このアルバムはなにかしながら聴いてもあまり面白くない。BGMとしてはあまり具合のいい作品ではない。でも、ちょっと集中して音楽だけをじっくり楽しもうと思うときには最良の作品のひとつである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 素敵じゃないか
2 僕を信じて
3 ザッツ・ノット・ミー
4 ドント・トーク
5 待ったこの日
6 少しの間
7 スループ・ジョン・B
SIDE B
1 神のみぞ知る
2 救いの道
3 ヒア・トゥデイ
4 駄目な僕
5 ペット・サウンズ
6 キャロライン・ノー
ビーチ・ボーイズのほとんどの作品はリーダーのブライアン・ウィルソンによって書かれている。本作も、他のメンバーがコンサート・ツアーを行なっている間に彼がスタジオにこもり、楽団や大量のミュージシャンを集めて制作した。
ビートルズの『ラバー・ソウル』に影響を受けて、ブライアン・ウィルソンはこの作品をつくったそうだ。
そしてビートルズが今度はこの『ペット・サウンズ』に感銘を受けて『サージェント・ペパーズ』を作ることになる。
アメリカ代表とイギリス代表がものすごく高いレベルで、ポップ・ミュージックの進化を競い合っていた幸福な時代の話である。
ブライアン・ウィルソンが全身全霊で制作した大傑作はしかし、全米チャートの10位どまりとなり、それまでのアルバムほどには売れなかった。また、当時の米国での評価はその実験精神は認めつつも、困惑したものや否定的な評価が多かった。
次はブライアン・ウィルソンが『サージェント・ペパーズ』を超える作品、『スマイル』を発表する番だったが、しかし薬物依存などでもともと精神的に不安定だった彼は、『ペット・サウンズ』が期待したようなセールスも評価も得られなかったこともあって、やがて重度の精神障害に陥ってしまう。
『スマイル』はジャケットまでできていたものの完成に至らず、史上最も有名な未完成作品となり、同時に最も有名な海賊版となってその断片が流通した。
一方、新しいもの好きのイギリスでは『ペット・サウンズ』は全英2位の大ヒットとなり、音楽メディアでも高い評価を得た。年間で最も売れたアルバムのベスト5に入り、NME誌のアーティスト人気投票でビーチ・ボーイズは、ビートルズをおさえて1位となった。
↓ アルバム冒頭を飾る「素敵じゃないか」。シングル・カットされて全米8位のヒットとなった。
↓ ブライアン・ウィルソンによる最も美しい曲とも評される「神のみぞ知る」。英国チャート2位のヒットとなった。
(Goro)
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