ファンキーなおしどりグルーヴ 〜トーキング・ヘッズ『フィア・オブ・ミュージック』(1979)【最強ロック名盤500】#272

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#272
Talking Heads
“Fear of Music” (1979)

トーキング・ヘッズは、この3rdで音楽性の質感がガラッと変わって、一気に面白くなった気がする。

より実験的で抽象的な方向へと突き進んでいるけれども、中でもベース女子のパイオニア、ティナ・ウェイマスとそれを支える夫のクリス・フランツのドラムによるファンキーなおしどりグルーヴに、つい耳が引っ張られていく。

N.Y.パンクの殿堂、CBGBの卒業生だった彼らだが、パンクとは完全に一線を画して、独自の道を切り拓いた最初の一歩となった作品だ。前作に続いてブライアン・イーノがプロデュースしていているが、そのイーノとも歯車がガッチリと噛み合ったように思える。

本作は1979年8月にリリースされ、全米21位と、トーキング・ヘッズにとってそれまでで最高位を記録した。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 イ・ズィンブラ
2 マインド
3 ペイパー
4 シティーズ
5 ライフ
6 メモリーズ

SIDE B

1 エアー
2 ヘヴン
3 アニマルズ
4 エレクトリック・ギター
5 ドラッグス

本作からシングル・ヒットは生まれなかったが、しかし楽曲は充実している。

いきなりアフロビートのA1「イ・ズィンブラ」で、トーキング・ヘッズが新しい扉を開いたことがわかる。この扉の向こうに、ロック・シーンを激震させる次作『リメイン・イン・ライト』の世界がある。

飛び跳ねるようなファンキーなリズムに乗せて「これはパーティーじゃない、ディスコでもない」と歌われるA5「ライフ」は滅法カッコいいし、いかにもニュー・ウェイヴ的なスピード感でベースがまたいいA4「シティーズ」や、ロウ・コードで詩情豊かに「天国とは永遠に何も起こらない場所」と歌うB2「ヘヴン」や、コーラスが美しいB1「エアー」なども印象に残る。

その「ヘヴン」もそうだけど、全体的に歌詞には虚無感や、ディストピア的な想像上の恐怖や、都市生活の不安や疎外感などを歌ったネガティヴなものが多い。

デヴィッド・バーンは2005年にライナー・ノーツに「歌詞は都市生活の中で感じるちょっとした違和感や不安を集めたものだ。都市の便利さや刺激の裏にある不穏さを書きたかった」と書いているけれども、音楽的には積極的に新しい試みをしていて、それに興奮しているかのようにとにかくバンドがエネルギッシュなので、暗い感じはあまりしないのだ。

ラストの「ドラッグス」も実験的な作品だが、最後まで緊張感が途切れることなく、完全にアートの域に達したバンド演奏の凄味を堪能できる。

わたしは彼らのアルバムではこれがいちばん好きかな。

↓ オープニングを飾るアフロビートの先駆的作品「イ・ズィンブラ」

↓ 架空の未来戦争を描いたディストピア的な「ライフ」。

(Goro)

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