⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️Sonic Youth
“Goo” (1990)
わたしにとっての90年代ロックの幕開けは、本作のオープニング・トラック、「ダーティ・ブーツ」のあの美しくも不穏なイントロからだった。
N.Y.のバンド、ソニック・ユースは1982年にインディ系レーベルからデビューした。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド以降脈々と発展を続けてきたロック界の地下フロアで、おそろしく聴きにくい、ノイジーで前衛的で暴力的な音楽をのたうちまわりながら咆哮し、カルト的な人気を博して〈N.Y.アンダーグラウンドの帝王〉と呼ばれた。彼らはテレヴィジョンやパティ・スミス、ラモーンズなどのN.Y.パンクの直系である。
80年代末にドラムがスティーヴ・シェリーに替わり、細かいビートが入ったあたりから作風が変化し、地下の香り漂うダークでノイジーな要素と、60年代ロックのようなキャッチーでパワフルな歌が融合したような楽曲が生まれるようになった。
本作は1990年6月にリリースされた、ソニック・ユースのメジャー移籍第1弾であり、通作6枚目のアルバムである。
【オリジナルCD収録曲】
1 ダーティ・ブーツ
2 テュニック
3 メアリー・クライスト
4 クール・シング
5 モート
6 マイ・フレンド・GOO
7 ディスアピアラー
8 ミルドレッド・ピアス
9 シンデレラス・ビッグ・スコア
10 スクーター・アンド・ジンクス
11 ティタニウム・エクスポーズ
本作は、アート系の繊細さとパンク系の大胆さが絶妙なバランスで両立している。サブカルチャーと前衛芸術が両立し、インテリジェンスと野蛮が両立している。
そんなロック・アルバムを、当時のわたしはまだ聴いたことがなかった。わたしは初めて聴く、あまりに刺激的なロックに震えた。
ソニック・ユースの二人のギタリスト、サーストン・ムーアとリー・ラナルドの変態チューニングのギターから放たれる音は、ラウドでありながらシャープで軽く、良い意味での安っぽさがたまらない。紡ぎ出されるメロディとノイズは、どちらも発光するように美しい。
80年代までは、インディーズからメジャーへ移籍するということは商業主義に身を売ることのように思われていたが、「オルタナティヴ・ロックが過小評価されている現状を覆したい」という思いで、その禁じ手をソニック・ユースは大胆に破ってみせた。
アンダーグラウンドの帝王がメジャーへの扉を開くと、それをきっかけに地下フロアで燻っていた才能豊かで個性的なアーティストたちが続々と続いた。
当時のソニック・ユースはよく音楽誌に登場したものだ。
彼らのインタビューで必ずと言っていいほど訊かれたのは「若いバンドで、良いと思うバンドは？」という質問である。わたしは彼らを無条件に信用していたので、彼らが挙げる無名の後輩バンドたちのCDを片っ端から聴き漁ったものだ。
このアルバムからシングル・カットされた「ダーティ・ブーツ」のMVがわたしは大好きだ。
ソニック・ユースのライブ会場で、気の弱そうな冴えない少年とロック好きの少女が出会い、モジモジしながらも惹かれ合い、見つめ合い、最後に２人がステージに駆け上がってキスを交わしたところを警備スタッフに引き離され、客席にダイブする、という展開である。この「冴えない少年」が意を決したようにステージに駆け上ったシーンはまさに、オルタナティヴ・ロック革命の始まりを象徴する瞬間のように見えたものだ。
そしてここでもソニック・ユースはお気に入りの後輩バンドをさりげなくアピールしている。少女が着ているTシャツにプリントされているのは、当時はまったく無名の新人バンドだった。
しかしこの1年3ヶ月後、その新人バンドは世界的な大ブレイクを果たし、オルタナティヴ・ロックのシンボル的存在となったのである。
↓ 90年代ロックの幕開けを告げたオープニング・トラック「ダーティ・ブーツ」。
↓ ベースのキム・ゴードンがリード・ヴォーカルを取った「クール・シング」。シングル・カットされて米オルタナ。チャートの7位まで上昇した。このMVではめずらしく、キムが妖艶なポーズを見せる。
（Goro）
