ロックがデジタル・ビートにシンセサイザー、そしてMTVによって、わたしの苦手ななんだか明るくて調子の良いやべえヤツに変質してしまった1980年代が終わる頃に、わたしはソニック・ユースと出会った。
わたしは当時、リアル・タイムの80年代ロックに興味を惹かれず、60~70年代のクラシック・ロックやパンク・ロックばかり聴いていたのだけど、ソニック・ユースに出会ったことで「オルタナティヴ・ロック」という地下世界があることを知り、そこからリアル・タイムの地下ロックに夢中になっていったのだった。
彼らは当時「ニューヨーク・アンダーグラウンドの帝王」と呼ばれていた。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド~ストゥージズ~ラモーンズ~テレヴィジョンという流れを汲んだ、正統のお世継ぎだった。
そして1990年に彼らがまさかのメジャー・デビューに成功したのをきっかけに、オルタナティヴ・ロックの扉が地上世界に開け放たれ、ダイナソーJrやニルヴァーナ、マッドハニー、スマッシング・パンプキンズなどが続々とメジャー・デビューし、ロック・シーンになだれ込んできたのだった。
ソニック・ユースの音楽には、アートの繊細さとパンクの大胆さが両立し、サブカルチャーと前衛芸術が両立し、インテリジェンスと野蛮が両立している。
サーストン・ムーアとリー・ラナルドという変態ギタリストの競演は、エレキギターとは基本的にノイズを紡ぎ出す楽器である、ということに気づかされた。
そしてノイズがリアリティを孕み、ノイズの奥に未知の美と、感情を揺さぶるマジックがあるということにも気づいたのだった。
なんて語り出してしまうとなんだか難解な音楽みたいに聞こえるかもしれないけど、彼らの音楽の本質はパンク・ロックだ。より徹底的に、より刺激的でカッコいいパンク・ロックを、型にはまらずに追求した果てのものだとわたしは思っている。
以下は、わたしが愛するソニック・ユースの至極の名曲ベストテンです。
Death Valley ’69
彼らの初のシングル・レコード。後に2ndアルバム『バッド・ムーン・ライジング(Bad Moon Rising)』に収録された。
イギリスの音楽誌NMEでその年のベストトラックの第10位に選ばれるなど、ソニック・ユースの名前が知られるきっかけになった出世作。
The Diamond Sea
メンフィス録音となった95年のアルバム『ウォッシング・マシーン(Washing Machine)』のラストを飾る曲。メランコリックな歌メロとノイズの洪水による、19分を超える大作だ。
しかしノイズはただ無闇矢鱈に放出されたカオスではなくて、ちゃんと音楽的なノイズなので、最後まで飽きずに聴ける。
タイトル通り、ダイアモンドが散りばめられた光の波のような大海がイメージできる。
暇がある時に是非。
Incinerate
2006年発表のアルバム『ラザー・リップト(Rather Ripped)』からのシングル。
90年代後半からジム・オルークが加入し、さらなる前衛的な方向性を打ち出していたけれど、ここでジムが抜け、『GOO』の頃のような、透明感のあるギターの響きが美しいソニック・ユースらしいロックに回帰した。
Sugar Kane
前年にニルヴァーナの『ネヴァーマインド』で新しい時代のロックを創造したプロデューサー、プッチ・ヴィグをプロデューサー迎えたアルバム『ダーティ(Dirty)』からのシングル。
当時流行のグランジ的なスタイルだが、今聴いても切れ味の鋭さはさすが。
彼ら自身が扉を開いたオルタナ・ブームの真っただ中で、ソニック・ユース史上最も売れたアルバムとなった。
Kool Thing
メジャー移籍第1弾『GOO』からの1stシングル。パブリック・エナミーのチャックDがゲスト参加している。
楽曲から良い意味でインディーズ臭さが消え、ソリッドで強靭なサウンドになった。
PVもリード・ヴォーカルを取るキムのヴィジュアルを前面に押し出して、よりPOPなイメージに。キムのファンは必見のPVだ。
Computer Age
オルタナ勢が大挙参加して話題になったニール・ヤングのトリビュート・アルバム『Bridge:a tribute to Neil Young』収録曲。
ニール・ヤングがデジタル・ビートのエレクトロニクス・サウンドに挑戦し、声もヴォコーダーで変換した82年の問題作『トランス』からのまさかの選曲。それをハードなオルタナ・ロック風にアレンジした傑作カバーだ。
80年代は迷走していたニール・ヤング自身もこのカバーに触発され、轟音ギター・ロックに回帰することになり、ソニック・ユースをサポート・アクトに迎えて史上最もやかましい爆音ツアーを行った。
Bull in the Heather
94年のアルバム『エクスペリメンタル・ジェット・セット、トラッシュ・アンド・ノー・スター(Experimental Jet Set, Trash & No Star)』からのシングル。
ソニック・ユースらしいギターの響きが堪能できる快作。もはや無調音楽になりかけていくギリギリのところでとどまっている感じが面白い。前衛とポップが両立された奇跡の音空間だ。
Teenage Riot
ソニック・ユースのインディーズ時代の代表曲で、彼らの名前を一気に広め、80年代末からのオルタナティヴ・ロック・ブームの先鞭を付けた曲。
2本の変態チューニングのギターが奏でる不協和音と闇雲な疾走感、まさに「十代の暴動」のイメージのような、あふれ出る欲望と有り余るエネルギーを撒き散らす、圧倒されるようなカッケー曲だ。
100%
92年の『ダーティ』からの1stシングルで、彼らにとって最も売れた、代表曲。
前年のニルヴァーナのブレイクとグランジ・ブームの真っただ中で、オルタナ勢の主将として求められるままに、ハードでシンプルでわかりやすいシングルで期待に応え、歓迎された。
PVもカッコいい。
Dirty Boots
1990年のアルバム『GOO』のオープニングを飾る曲。
わたしは当時、この曲の圧倒的なカッコ良さにシビれ、それからオルタナティヴ・ロックの世界に没入することになった記念すべき曲だ。だから、思い入れたっぷりこである。
美しく不穏なイントロに始まり、ポップなメロディとノイジーなサウンドが快く絡み合い、ハードなサビに興奮させられた。わたしの人生を変えた1曲、と言うと大げさだけれど、間違ってはいないかもしれない。
以上、ソニック・ユース【名曲ベストテン】でした。
(by goro)