⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
“Some Kind of Monster”
監督: ジョー・バーリンジャー、ブルース・シノフスキー
出演:メタリカ
ヘヴィメタル・バンドの最高峰、メタリカの「真実の瞬間」が包み隠さず撮られたドキュメンタリー映画である。
もともとは2003年のアルバム『セイント・アンガー』のレコーディング風景を撮影する、メイキング・フィルムのつもりで撮影は始められるが、しかし偶然のアクシデントが積み重なり、1本の感動的な作品へと変わっていく。
まず、ベーシストが脱退するというバンド存続の危機から、バンド内に不協和音が響き始め、肝心の音楽にも意見が対立して収拾がつかない。メンバーはお互いに主導権を奪い合おうとし、見ているこっちが恥ずかしくなるほど幼稚な理由で罵り合う。
マネージャーが連れてきた心理カウンセラーがスタッフに加わるが、これがまた余計に火に油を注ぐ。ヴォーカルのジェイムズはアルコール依存症の治療のために療養所に入り、アルバム製作も余儀なく中断される。
バンドは最悪の状態を迎えるが、やがて新しいベーシストが加入し、ジェイムズも復帰、アルバム制作も徐々に進み始め、バンドメンバーも互いに歩み寄りを見せる。
メンバーがアイデアを出し合いながら曲が出来上がっていく過程もたっぷりと見ることが出来る。わたしはこの、曲が出来上がっていく過程というのがいちばん見たいのだ。
最後は数年ぶりのライヴの映像で終わるが、あの崩壊寸前だったバンドがいつものように熱狂的な観客に迎えられ生き生きと演奏する姿は、元々メタリカのファンでもなんでもないわたしですら思わず泣きそうになるぐらい感動的である。
また、メタリカ初期の頃に技術的な理由と酒癖の悪さが原因でクビになったギタリスト、デイヴ・ムステインと現在のメンバーを会わせるシーンがある。デイヴは後にメガデスというバンドを組んで現在に至るまで成功も収めている。
しかしデイヴにとって今でも世界最高のバンドはメタリカであり、メタリカのメンバーに「この辛さがお前らにわかるか?」と問う。そして「俺はメタリカにいたかった、酒をやめればよかった、一生懸命演奏技術を磨けばよかったとずっと後悔して生きているんだ」と語る。このシーンも涙なくしては見れない。
わたしはこの2時間21分の映画をDVDで見終わって、すぐにまた最初からもう一度見た。
メタリカをよく知らないわたしでさえ興味深く見ることが出来たのは、これほどむき出しにありのままの人間たちを映し出した音楽ドキュメンタリーは滅多にないからだ。
彼らは世界的な成功を収めたロックスターではあるが、しかし神でも聖人でもなく、自己のコントロールや他人とのコミュニケーションも下手くそな、ほんとうに普通の人間、どちらかというとややダメなぐらいのどこにでもいる人間だ。
しかしいったんその彼らが曲を書き、演奏を始めると、その凄まじい演奏技術と音楽的才能の底知れなさを改めて思い知らされる。そのギャップが凄い。
世界最高のバンドを維持すること、ロックスターでいることは楽なことではないのだ。
それは大企業を維持していくことや、その社長でいることが簡単ではないのと同じようなことなのかもしれない。
まあ、わたしはどちらにもなったことがないのでわからないけれども。
(Goro)