30年以上前、それまでに聴いていた音楽が一気に色褪せて思えたほど、初めて聴いたセックス・ピストルズは衝撃的だった。
ああ、ロックってこういうものだったんだ、とあらためて思ったほどだった。
でも、あれから30数年、わたしも様々な時代の様々なジャンルの音楽を聴いてきて、わたしの好みも変遷し、聴く音楽の範囲は大きく拡がり、若い頃には理解できなかった音楽の魅力などもわかるようになってきた。
そしてあらためて今、セックス・ピストルズの唯一のアルバム『勝手にしやがれ』を聴いてみると。。
ああ、ロックってこういうものだったな、とあらためて思ってしまうのである。
やっぱりこれは、ロック史上最高のアルバムだと思う。もう、とんでもなくカッコいい。
わたしは変わるどころか、数十年かけて様々な音楽を聴いてきたことによって、さらに強固にそう確信を持つようになってしまった。わたしは生粋のバカなのかもしれない。
セックス・ピストルズは1976年11月にシングル「アナーキー・イン・ザ・UK」でデビューしてから、1978年1月にジョニー・ロットンが脱退するまで、1年とちょっとぐらいしか活動していない。
その間に公式にレコードになった曲数はたったの16曲。それでいて、ロック・シーンを揺るがし、ひっくり返し、後世にまで影響を与えた。その影響は、何万年も消えない危険な放射線のように、今なお残っている。
実を言うと、わたしは彼らの歌っている歌詞、無政府主義者がどうのこうの、女王がどうのこうの、未来がどうのこうの、なんていうことを少しも理解していないし、まったく共感していない。
歌詞なんて、みんな自分の環境や状況とそれに対する思いに合わせて、好きなように解釈すればいいのだ。大事なのは、沸々と血をたぎらせ、負けたくない、生きていたい、という欲望がぐいぐいと湧いてくるような、音の力だ。
以下は、わたしが愛するセックス・ピストルズの至極の名曲ベストテンです。
Problems
ピストルズの曲の中でも、いちばん真面目な顔して歌ってる感じの曲だ。
わたしはもう人生も長いので、社会での中でこき使われる方もこき使う方も経験したが、問題があるのはだいたいにおいてこき使う方なのは間違いない。これは真実だ、若者たちよ。
この曲が歌ってるように、問題なのはおれたちじゃない、おまえのほうだ!ってことだ。
第9位 シリー・シング(1979)
Silly Thing
ジョニー・ロットン脱退後に、マネージャーのマルコム・マクラレン主導のもとに作られたピストルズの最期っ屁のような映画、『グレート・ロックンロール・スウィンドル』のサントラに収録された曲。スティーヴ・ジョーンズがギターとベース、ポール・クックがリード・ヴォーカルとドラムを担当して2人で録音した曲だ。2人のポップな素質が発揮された曲だ。
ジョニー脱退後に録音された数々のくだらないトラックの中で、唯一まともに聴ける曲とも言える。
EMI
たくさんロックを聴いてるけれども、クビにされたレコード会社を批判する歌って他にないだろうな。
でもわたしはそのことよりも、悪口罵倒罵詈雑言をちゃんとバースとコーラスのあるキャッチーな歌にしてしまうポップセンスみたいなのが好きなんだよねえ。
Seventeen
おれはヒッピー野郎みたいに髪も伸ばさないし、スカートみたいなズボンも履かない。うるさい音が好きで、なまけものだ、働きたくねえんだ、みたいな歌詞だ。
17歳の頃のことを思い出しながら、サビで「I’m a lazy sod(おれはなまけものだ)!」と一緒に歌って盛り上がれば、それでよしだ。
No Feelings
「自分のこと以外どうでもいい」みたいなことを歌ってると思うけど、ラウドなギターに乗せて速射砲のように巻き舌でたたみかけた後で、いきなりキャッチーなメロディのサビが来るところが大好きだ。
どれだけ怒り狂っていても芯はポップであることがピストルズの魅力だ。
Bodies
原題の「死体(Bodies)」は中絶された赤ん坊のことだ。
中絶反対の歌みたいに思われてるけど、人はとにかくファックしたがるし、頭のいかれた女もいるし、そして厳しい現実やむごたらしい現実がある、という事実を歌っている。いつだってそれについて考えるのは歌手の役目じゃなくて、受け取るわれわれのほうなのだ。
これはピストルズの曲の中でも、音的にも内容的にも最もハードな曲だ。
97年の再結成ライヴはこの曲がオープニングだった。わたしも日本武道館で観た。
最高のオープニング、そして最高のライヴだった。
Pretty Vacant
ピストルズの3枚目のシングル。全英6位のヒットに。
カッコつけても気取ってても、おれたちは中身空っぽの阿呆さ、と自虐的に歌った歌。
当時は、おれのことぢゃん!と思って嬉しかったな。今はもうオールド・ヴェイカントだけど。
Holidays In the Sun
アルバムのオープニング・トラックで、これ以上ワクワクして、一気にテンションが上がる曲なんて他に聴いたことない。家賃2万円の木造老朽アパートで、最高のアルバムに出会ったかもしれない、と思った瞬間のことを今でも思い出せる。
God Save The Queen
ピストルズのセカンド・シングルで、全英2位という大ヒットとなった代表曲。
わたしはイギリスの王室になんの恨みも想いもないけれど、とにかくこの音の爆発力、疾走感にノックアウトされたのだ。
”No Future For You”というフレーズを、いつも口づさんでいた。
「おまえに未来はない」と言われてるのに、なんで感動するのかわからなかったけど、今になって思えば、中卒で職を転々として社会の底辺にいたようなわたしにはたしかに未来はないように思えたし、きれいごとじゃなく、はっきり真実を指摘されたような気がして、勝手に自分のテーマソングのように解釈したんじゃないかと思う。
それでも生きていくしかないのだから、逆にそのテーマソングを手にしたことで勇気づけられたような気分だったんだろうな。
Anarchy in the U.K.
セックス・ピストルズの記念すべきデビュー・シングル。
無政府主義だの、反キリストだの、そんなことは日本人のわたしにはどうでもよかった。
このパワフルなギター、シンプルなベースと熱いドラム、天真爛漫にすべてに唾を吐きかけるようなヴォーカルにシビれたのだ。
この曲を口づさめば、自分の中の固定観念が崩壊し、解放されて、自由になった気がした。
それが自分にとって、アナーキーという意味だと思ってたのさね。
セックス・ピストルズのアルバムを最初に聴くなら、当然ながら『勝手にしやがれ(Never Mind The Bollocks)』一択だ。それ以外のいろんな編集盤はだいたい期待外れに終わったり、海賊盤みたいな粗悪な音質の詐欺みたいなものだったりするので、注意。
ただし、1996年の再結成ツアーのライヴ盤『勝手に来やがれ(Filthy Lucre Live)』は公式なので音質はもちろん、内容も素晴らしい。こんなに演奏できたんかという、嬉しい驚きがある。
シングルB面や『グレート・ロックンロール・スウィンドル』の使用曲など、アルバム未収録曲も聴いてみたいという方には『フロッキング・ア・デッド・ホース』がお薦め。
この3枚があればもう、パーフェクト・コレクションも同然です。
(by goro)