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Prince
“Sign O’ The Times” (1987)
このアルバムを聴いていると、心が安らぐ。
いや、様々なジャンルの要素が賑わうとはいえ、背骨はファンクなポップ&ダンス・ミュージックなので、「心が躍る」ならともかく、心が安らぐというのはおかしな表現のような気もする。
それでもこのアルバムに対してわたしが抱く印象は、あくまで「心が安らぐ」のである。
1982年の『1999』からプリンスのバック・バンドとして商業的な黄金時代を築いたザ・レヴォリューションが解散し、本作は再びプリンスが独りに戻って、管楽器以外のほぼすべての楽器を自ら演奏して作り上げた作品である。
オープニングのタイトル曲から、無駄な音を削りに削った、虚飾のない音楽をやろうとする意志と覚悟が感じられる。必要な音だけで作られた、すべての音に意味と味わいがあるような気がしてくる音空間だ。ポップ&ダンス・ミュージックのはずなのに、それに似つかわしくないほどの緊張感と格調の高さもある。
むしろ音楽作品というよりは、孤独な天才が、高度な職人的技術で作り上げた緻密な芸術作品といった趣だ。だから「心が躍る」というより、「心が安らぐ」という印象を受けるのかもしれない。
もちろんヒーリング・ミュージックのような、退屈な安らぎではない。確固とした独自性の、一風変わった音空間に浸り、身を任せてみるような心の安らぎに近い。
本作は1987年3月にリリースされた、プリンスの9枚目のアルバムだ。
当初の構想は3枚組のアルバムだったらしいが、『パープル・レイン』以降、セールスが激減していたことを理由にレコード会社から却下され、曲を削って2枚組にしたという。だからこその完成度の高さとも言えるだろう。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 サイン・オブ・ザ・タイムズ(全米3位、全英10位)
2 プレイ・イン・ザ・サンシャイン
3 ハウスクウェイク
4 ドロシー・パーカーのバラッド
SIDE B
1 イット
2 スターフィッシュ・アンド・コーヒー
3 スロウ・ラヴ
4 ホット・シング
5 フォーエヴァー・イン・マイ・ライフ
SIDE C
1 ユー・ガット・ザ・ルック(全米2位、全英11位)
2 イフ・アイ・ウォズ・ユア・ガールフレンド(全英20位)
3 ストレインジ・リレイションシップ
4 プレイス・オブ・ユア・マン(全米10位)
SIDE D
1 ザ・クロス
2 ビューティフル・ナイト
3 アドア
4曲のシングル・ヒットが生まれ、アルバムは全米4位、全英6位のヒットとなった。
ファンク、ソウル・バラード、ハード・ロック、サイケデリック、エレクトロ・ポップなど、幅広い要素が詰め込まれた内容にもかかわらず、とっ散らかった印象はなく、むしろ一分の隙もないような完成度だ。
発売当初から現在に至るまで評価は高く、「プリンスの最高傑作」「80年代最高のアルバム」などと絶賛されている。
わたし個人的には、プリンスのアルバムの中で、最もカッコいいジャケットだなと思っている。
↓ 全米3位のヒットとなったタイトル曲「サイン・オブ・ザ・タイムズ」。
↓ 全米10位のヒットとなった、本作中最もポップな曲のひとつ「プレイス・オブ・ユア・マン」
(Goro)