素っ裸のロケンロール 〜 プライマル・スクリーム『プライマル・スクリーム』(1989)【最強ロック名盤500】#14

Primal Scream

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【最強ロック名盤500】#14
Primal Scream
“Primal Scream” (1989)

「プライマル・スクリームといえばこのアルバムだ」と言う人はほとんどいないと思うが、わたしにとってはそうなのだ。

彼らは、フォーク・ロックに始まり、アシッド・ハウスやサイケデリック、ダブ、エレクトロニカ、R&Rやカントリー、シンセ・ポップなど、アルバム一作ごとに音楽性をガラリと変えてきたため、いったいどれが彼らの本当の姿なのか、もはや誰にもわからなくなっているだろう。

まるで、素っ裸になるのが恥ずかしくて、毎回、最新流行のファッションに身を包んでいるようにも映る。

しかしわたしは、そんな彼らの「恥ずかしい素っ裸」は、このアルバムでさらけ出されていると信じて疑わない。

1989年9月に発売されたプライマル・スクリームの2ndアルバムだ。

1stアルバム『ソニック・フラワー・グルーヴ』はザ・バーズ風の12弦ギターが特徴的な、60年代サイケ・フォーク・ロック風の作品だった。

しかし12弦ギターを弾いていたギタリストが脱退したこともあって、本作では音楽性が一変し、アグレッシヴなエレキギターとポップな歌メロのロケンロールや、ディープ・ソウル風のバラードなどで構成されている。2ndながらあえてセルフ・タイトルにしたのも、再出発の意味を込めてのことだろう。たぶん。

アルバムは瞬間的にインディ・チャート上位まで上がったものの、4週間でチャートから消えてしまった。商業的には失敗となり、メディアで好意的に取り上げられることもほとんどなかった。そのせいでレーベルの広報担当者のクビが飛んだという。

実のところわたしも、当時は全然良いと思わなかったのだ。

黄金期のストーンズやMC5やストゥージズ、ニューヨーク・ドールズやロンドン・パンクなどをなぞっただけのように思え、オリジナリティや新しさに欠ける印象だったし、そもそもあの時代にそんな時代錯誤なロケンロールやソウル・バラードをやっているバンドなんていなかったのだ。「ダセぇな」と当時のわたしは思ったものだ。だからほとんど聴かなかった。

それよりも次の3rdアルバム『スクリーマデリカ』は、アシッド・ハウスとロックを融合した画期的な試みの、いかにも耳新しさに満ちた作品であり、高く評価され、彼らの出世作となった。こちらはわたしも大いに気に入っていたものだ。

しかし35年が経った今、この2枚を聴くと、当時とはまったく違った印象を持つ。

『スクリーマデリカ』には名曲・代表曲がいくつかあるものの、スタジオ・ワークによる作り物くささは否めないし、とっくに賞味期限切れとなった当時流行のダンスチューンはいかにも退屈だ。

逆に本作『プライマル・スクリーム』は、決してアルバムの完成度は高くないものの、迷いのない情熱的なロックや心を揺さぶるソウルがそのまま生き生きと聴こえてくる。

【オリジナルCD収録曲】

1 アイヴィ・アイヴィ・アイヴィ
2 ユー・アー・ジャスト・デッド・スキン・トゥ・ミー
3 シー・パワー
4 ユー・アー・ジャスト・トゥ・ダーク・トゥ・ケア
5 アイム・ルージング・モア・ザン・アイル・エヴァー・ハヴ
6 ギミー・ギミー・ティーンエイジ・ヘッド
7 ローン・スター・ガール
8 キル・ザ・キング
9 スウィート・プリティ・シング
10 ジーザス・キャント・セイヴ・ミー

「ギミー・ギミー・ティーンエイジ・ヘッド」や「シー・パワー」のような激しいガレージ・ロックはただただカッコいいし、「アイヴィ・アイヴィ・アイヴィ」や「ローン・スター・ガール」などのポップなロケンロールは懐かしさと相まってつい口づさんでしまう。

そして何より「ユー・アー・ジャスト・デッド・スキン・トゥ・ミー」や「アイム・ルージング・モア・ザン・アイル・エヴァー・ハヴ」のようなディープ・ソウル風のバラードに心を揺さぶられる。若い頃はこのバラードの良さがよくわからなかったけれど、わたしもその何十年か後にディープ・ソウルにハマったりもして、あらこんなところに大好物があったとは、という感じである。

ボビー・ギレスピーは1stに比べるとどこか解放されたように生き生きと歌っているものの、しかしその華奢で弱々しい声は、あくまで内向きな、絶対的な孤独の影を纏っているように聴こえる。これがまた良い味だ。

わたしより5歳年上の彼に対して、リスペクトというよりは共感を常に感じてきたのは、そのいかにも陰キャで部屋にこもって古いロックやソウルばかり聴いてるような、永遠の少年を思わせる声のイメージのせいなのだろうと思う。

その後もプライマル・スクリームは1作ごとに大きくスタイルを変えて楽しませてくれたけれども、本作は言わば「素っ裸の」プライマル・スクリームが聴ける、貴重で愛すべき作品だ。10曲32分があっという間すぎて、物足りなく思うほどだ。

↓ アルバムからのシングル「アイヴィ・アイヴィ・アイヴィ」。英インディ・チャートで3位まで上昇した。たぶんだけど、ボビーさんはなにかしらのおクスリをやってらっしゃるようなご様子。

↓ 心を揺さぶるバラード「アイム・ルージング・モア・ザン・アイル・エヴァー・ハヴ」。彼らの出世作となった翌年のシングル「ローデッド」は、この曲のエンディング部分をリミックスしたものだ。

(Goro)

コメント

  1. アイアイ♪ より:

    先日の続きのようなハナシなのですが…
    私が渡英したのは1990年の5月。目的は英語の習得でしたでしたが、裏の目的はもちろんライブ鑑賞♪
    英国での初ライブ体験はプライマルスクリーム!!になるはずだったところ、ドラッグのせいか?あえなくキャンセルに(涙)。前年に発売していたこのアルバムに続き、既にクラブを中心にローデッドがかなり流行っていた、彼らの過渡期な時期だったので惜しいことになったなあと思いつつ、そのおかげで英国での初ライブ体験が、確か1stアルバム発売直後(アルバムフォトのTシャツ買ったので多分)のライドになったのも幸運だったなあと、今となっては思いますね。