Velocity Girl (1986)
1分半ぐらいであっという間に終わってしまうこの曲は、プライマル・スクリームが1986年4月にリリースした2ndシングル「Crystal Crescent」のB面に収録された曲で、アルバム未収録曲となっている。
当時はまったく無名だったプライマル・スクリームだったが、この曲が音楽誌NMEの付録のコンピレーション・テープに収録されたことで初めて注目を浴びたという。
ジム・ビーティの12弦ギターを中心に据えてザ・バーズのようなフォーク・ロックをやっていた頃だ。歌声よりも息継ぎの方が目立つ華奢な声のボビー・ギレスピーによる「Leave me alone!(独りにしてくれ!)」という孤独の叫びがたまらない。わたしはこの曲が大好きだ。
これがプライマル・スクリームの最良の曲というわけではないし、「永遠の名曲」みたいなものでもないけれど、ロック特有の「一瞬の輝き」というジャンルに分類したくなるような瑞々しさや儚さを纏った曲だ。
たぶんわたしは、そういうものが人一倍好きなんだと思う。完成度や技術の高いものも良いが、ちょっと壊れた、素人っぽいからこそリアリティがある音楽もまた魅力的なものだ。初期のクリエイション・レーベルから発売されたシングルだが、このいかにもインディ系らしい録音も悪さもひっくるめての「味」もまた良いものだ。贅を尽くした高級料理も良いが、大衆食堂の味だってそれはそれで捨てたものではない。
この曲は2019年4月にシングル・レコードとして、今度はA面に収録されて再リリースされた。下のMVはそのときに制作されたものだ。この一般にはまったく知られていない小曲を33年も経ってから再発し、MVまで撮るなんて、この隠れた名曲がファンに永く愛されていることをバンドもよく知っていたことが窺えて嬉しくなったものだ。
つねに新しい実験に挑戦して、そのたびに斬新な音楽を生み出してきたプライマル・スクリームという偉大なバンドの、これがスタート地点だったということはもっと知られていいと思う。
↓ マニック・ストリート・プリーチャーズが1996年にリリースしたシングル「オーストラリア」のB面に収録されたカバー。
(Goro)