Pretenders
Stop Your Sobbing (1979)
1979年1月にリリースされた、プリテンダーズのデビュー・シングルだ。全英34位。
原曲はキンクスの1stアルバムに収録されていた曲で、弱冠20才のレイ・デイヴィスのソングライティングの才能が開花した、アルバムの中でも最も独創的な曲として異彩を放っている名曲だ。
わたしもこの曲は、キンクスの中でも最も好きな曲のひとつだ。
こんな、どこかノスタルジックでせつない楽曲こそ、レイ・デイヴィスの真骨頂である。
マルコム・マクラレンとヴィヴィアン・ウエストウッドがロンドンで経営していたブティック《セックス》で働いていたクリッシー・ハインドは、セックス・ピストルズのメンバーと親しい間柄で、彼らに影響を受けてバンドを始めたという。
しかしパンクのアティチュードは受け継ぎながらも、プリテンダーズは、当時のパンクの連中が否定していた60年代のブリティッシュ・ビート・バンドのひとつ、キンクスのカバーでデビューした。まるで、〈パンクも良いけど、私たちは王道ロックで行くわ〉という宣言のような気骨を感じる。しかも、ザ・フーやストーンズではなく、キンクスのせつない系を選ぶところなんて、抜群のセンスを感じてしまう。
プロデュースを頼んだニック・ロウに、この曲とオリジナル2曲が入ったデモテープを渡すと、この曲がデビュー・シングルに採用されたということだ。
そしてこれが縁となったのか、クリッシー・ハインドはレイ・デイヴィスと恋愛関係となり、娘を一人もうけている。結婚はしていない。それについてレイ・デイヴィスは次のように語っている。
「私には一人の女性に収まるという才能がなかった。私生活を壊す天才だったんだ」(レイ・デイヴィス自伝『X-Ray』1994年)
クリッシー・ハインド、レイ・デイヴィス、セックス・ピストルズ、ニック・ロウ。
登場人物、全員好きだな。
誰か、プリテンダーズの映画でも作ってくれないかなあ。
(Goro)