不機嫌女の変貌 〜PJハーヴェイ『トゥ・ブリング・ユー・マイ・ラヴ』(1995)【最強ロック名盤500】#352

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【最強ロック名盤500】#352
PJ Harvey
“To Bring You My Love” (1995)

“PJハーヴェイ”とはもともと、ポリー・ジャン・ハーヴェイ(Vo&G)、スティーヴ・ヴォーン(B)、ロブ・エリス(Dr)の3人組のバンド名だったのだが、そのバンドを解散し、ポリーのソロ・プロジェクトとして初めて制作されたのが本作だ。

前作『リッド・オブ・ミー』は、スティーヴ・アルビニのプロデュースのもと、トリオによる一発録りの攻撃的で緊迫感のあるサウンドが特徴の、ポリーの生々しい情念が曝け出されたような、激しく、凶暴なアルバムだった。

3rdアルバムとなる本作は、前作から一転して、プロデューサーにU2やデペッシュ・モード、スマッシング・パンプキンズなどの仕事で知られるフラッドを迎え、シンセサイザー、ストリングス、オルガンなどを多用したドラマチックなサウンドに進化した。

前作のモノクロのヘビ女のようなジャケットから一転、派手な化粧と赤いドレスが際立つカラフルな天然色ジャケットが、その音楽性の変化を象徴しているようだ。

本作は1995年2月にリリースされ、全英12位、全米40位と、前作(全米158位)に比べると米国でのセールスを大きく伸ばし、100万枚を超えるヒットとなった。

【オリジナルCD収録曲】

1 トゥ・ブリング・ユー・マイ・ラヴ
2 ミート・ジ・モンスタ
3 ワーキング・フォー・ザ・マン
4 カモン・ビリー
5 テクロ
6 ロング・スネイク・モーン
7 ダウン・バイ・ザ・ウォーター
8 アイ・シンク・アイム・ア・マザー
9 センド・ヒズ・ラヴ・トゥ・ミー
10 ザ・ダンサー

前作は「凄まじいな!」とは思いつつ、聴いていて耳も心もヒリヒリするような、殺伐とした気分になるというか、正直、決して楽しいアルバムではなく、そう何度も聴きたくはならなかった。

本作も不機嫌さと攻撃性は不変であるものの、そのサウンド・プロダクションによって楽曲が変化に富み、楽しませてくれる。

ポリーの歌声も、前作の素のままの情念をすべて曝け出したような狂乱の大暴れから、目の据わった狂女が恐るべき身の上を冷静に語るようなものに変わっている。暴力的ではなくなったけれども、より怖さは増しているとも言える。

ポリーは本作について次のように語っている「(本作は)かつてないほど、自分が作りたいものを正確に把握して作った作品。自分自身をさらけ出すのではなく、一つの世界を作り上げたかった」 (ホットプレス誌インタビュー 1995年)

言ってみれば、素人からいきなり映画デビューして、その素のままの体当たり演技が新鮮で絶賛された後、作品を重ねる過程で演技を身につけ、さらに表現の幅が広がった女優さんみたいなものかもしれない。

オルタナティヴ・ロックとデルタ・ブルースを融合させたようなPJハーヴェイの音楽性に、さらに演劇的なゴスの要素も加わっている。

↓ 母親が娘を溺れさせるという衝撃的なマーダー・バラッド「ダウン・バイ・ザ・ウォーター」。

↓ 本作の中でも特に激しく、エネルギッシュな「ロング・スネイク・モーン」。ポリーの「ヤォ!」という雄叫びが最高な、本作ではいちばん好きな曲だ。

(Goro)

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