Pixies
“Surfer Rosa” (1988)
何年かぶりに聴いても、冒頭の「ボーン・マシーン」の荒々しいドラムのイントロを聴いただけで惹き込まれ、ワクワクしてしまう。1988年3月にリリースされたピクシーズの1stアルバムだ。
前回の#4、ダイナソーJrの記事でも触れたように、90年代オルタナティヴ・ロックの爆発的な隆盛の、その導火線を辿ると、1987年12月にリリースされたダイナソーJrの2nd、そしてその3ヶ月後にリリースされた本作あたりが最初の着火点だったとわたしは睨んでいる。
ピクシーズは米マサチューセッツ州の州都、ボストンの出身だ。ダイナソーJrもマサチューセッツのアマースト出身だが、両市の距離はおよそ150km離れていて、交流があったようには思えない。たぶん偶然なのだろうが、90年代初頭のオルタナティヴ・ロック革命の起源を辿るとマサチューセッツ州に行き着くというのはなんだか面白い。
【オリジナルCD収録曲】
1 ボーン・マシーン
2 ブレイク・マイ・ボディ
3 サムシング・アゲインスト・ユー
4 ブロークン・フェイス
5 ジャイガンティク
6 ユーフラテス川
7 ホエア・イズ・マイ・マインド?
8 カクタス
9 トニーのテーマ
10 オー・マイ・ゴリー!
11 バモス
12 アイム・アメイズド
13 ブリック・イズ・レッド
生々しい爆音ドラムと、乾いた音で疾走するギター、お腹がすいてイライラしているかのようなデブの絶叫、そしてベーシストのキム・ディールのポップなコーラス。彼らにもまたダイナソーJrと同じく、ハードコアの要素が感じられるが、先鋭的でありながらもしかし、どこかユーモラスで、チャーミングだ。
そしてピクシーズからもまた、シリアスとユーモア、ポップとヘヴィ、カッコ悪さとカッコ良さを併せ持った魅力を感じる。
ロックに限らず、すべての芸術において、ユーモアのセンスが感じられるものにわたしは強く惹かれるが、その意味でもピクシーズはわたしにとって真にアーティスティックな、最高のロックバンドのひとつなのだ。
米アンダーグラウンド界の闇の王、スティーヴ・アルビニによってプロデュースされた本作は、80年代ロックの閉塞感を打ち破り、90年代ロックへの扉を開いた記念碑的な傑作のひとつだ。ピクシーズを愛してやまなかったカート・コバーンが『イン・ユーテロ』のプロデューサーにアルビニを選んだのも、この作品が念頭にあったものと想像する。
尚、ピクシーズはこの1stアルバムの3ヶ月ほど前に、8曲入りで20分ほどのミニ・アルバム『カム・オン・ピルグリム』(1987) をリリースしている。これが本当の彼らのデビュー作ということになる。
作風は本作とほぼ同じで、シンプルなサウンドながら独創性とユーモアに富んだ楽しいギター・ロックを聴かせている。わたしが当時買った『サーファー・ローザ』のCDにはこのミニ・アルバムも一緒に収録されていたので、たぶん今でもそうだろう。
↓ 冒頭を飾る、攻撃性とユーモア、ポップとヘヴィを兼ね備えた「ボーン・マシーン」。
↓ 彼らにとって最初のシングルとなった初期の人気曲。本アルバム中唯一のキム・ディールによる作品で、リード・ヴォーカルも彼女が務めている。
(Goro)